抱き締めた勇気と喜びに



 至って順調である。連絡も取り合うしデートもするし家に来てご飯を作ってくれることもある。俺は相変わらず莉奈のことがすげぇ好きだし、莉奈もそうだと信じている。
 でもやっぱり、触れたいのは事実で。

「い、今から俺は莉奈を抱き締める!」

 俺の部屋。向かい合って座りそう宣言すれば、莉奈は心配そうに俺を見つめた。

「無理しないでください。私平気だから……」
「嫌だ!俺が限界だ!」

 そう、いい加減好きな女が目の前にいるのに触れられないのは辛い。俺は莉奈に触れたいし、キスしたいし、それ以上だって。
 とりあえず手を握ってみようと、そっと手を伸ばす。そして熱が伝わるくらいの距離で。

「うっ……」

 やっぱり俺を襲う吐き気。やっぱり無理なのか。こうやって莉奈に心配かけるのも、もう申し訳ないな。

「莉奈、別れようか」

 俺じゃないほうが、莉奈も幸せだよな。そう思ったのは本気。でも、本当は嫌だ。本当はずっと一緒にいたい。莉奈と、ずっと。一人泣きそうになっていたら。
 パチン、と。頬に驚くほどの衝撃が走った。え、ビンタ?いやそれはまだ分かるけど、強くね?目を丸くして莉奈を見ると。

「りな……」
「……最悪。最悪!本当に最悪!」
「莉奈、」
「逃げんな馬鹿!」

 泣いていた。泣きながら怒っていた。……ほんと最悪だな。そんな莉奈に俺は、安心している。
 俺は泣きじゃくる莉奈に、もう一度手を伸ばした。吐き気は襲ってくるけれど、我慢して。そして、抱き締めた。
 ……ああ、いい匂いがする。柔らかい。やっぱり俺、莉奈のこと離したくねーや。

「ごめん」
「……っ」
「ごめんな莉奈」

 莉奈は少しずつでいいと言ってくれた。莉奈は、こんな俺でもいいと言ってくれた。そんな大切なことを忘れるなんて。この後トイレに駆け込んで吐く羽目になっても、どうでもいいや。莉奈に触れられて、俺は幸せだ。
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