ひだまりの笑顔



 ハッと目が覚めた時、うつ伏せで寝ている陽乃の白い肩が目に入った。まだ辺りは暗い。
 陽乃が無事俺と同じ大学に合格して長かった受験生活が終わり、ようやくゆっくりする時間が出来た。律と楓はもう就職が決まっているからバンドはやっていない。解散というわけでもなく、いつものメンバーは自然とスタジオに集まってきていた。

「俺の家に住めばいい」

 陽乃にそう言ったら、うるせェ律の野郎がふざけんなそんなことしたらすぐ妊娠するだろうがなんて騒いで、陽乃もりっくんがうるさいしなんて言って断ってきた。そもそも週4で泊まりに来たらここに住んでるようなものだと思う。

「ん……」

 陽乃が寝返りを打つ。穏やかで無邪気な寝顔。左手の薬指には、俺が渡した指輪。可愛いと思う。愛しいと思う。好きなものをそばに置きたい。それが悪いことだとは、俺は全く思わない。

「陽乃」

 囁くように呼ぶと、ピクッと陽乃の肩が揺れた。ゆっくりと瞼が開く。

「あれ……もう朝ですか……?」
「違う」

 陽乃に覆い被さって、背中にキスを落としていく。上から順番に。ツッと指で腰をなぞると体がピクッと揺れた。

「あ……、エージさ、」
「陽乃、お前が欲しい」

 そばにいてほしい。いつだって触れていたい。好きなんだから、そう思って当然だろ。
 陽乃ははじめは眠そうに目を擦っていたけど、そのうち甘い声を上げ始めた。指で、舌で、肌で。陽乃の全てに触れて行く。陽乃を求めることに理由なんてない。いらない。本能で求めているのだから、理性なんて必要ない。

「あっ、ん、」
「はぁ、陽乃……」

 俺に慣れたそこは、簡単に俺を呑み込んでいく。抱き合って、唇を重ねて、深く深く。パズルのようにピッタリと重なって、俺たちは誰もいない世界に沈んでいくのだ。

***

「律、お前いらねー」
「……へっ?」

 次の日、律がまたスタジオに来たからそう言ってやった。陽乃はキョトンとしている。俺にはお前がいたら何もいらない。だから邪魔をする律は排除……

「何怖いこと考えてんの?!やだから、俺排除とかされないから!!」
「……チッ」
「え、エージさん、私りっくんがいなくなるなんて困ります!だから、ね?考え直して?」
「……」
「ね?」
「……仕方ねぇな」
「ハハハ、相変わらず英司はハルちゃんに激甘だね」

 笑っている楓も排除対象だがまぁ今はいいだろう。陽乃が悲しむのも俺の本意ではない。陽乃の手を引き抱き寄せる。真っ赤になった陽乃の耳元で囁いてやった。

「結婚したら陽乃の全ては俺のものだからな」

 と。二十歳になるまでは待ってやろうか。嬉しそうに微笑む陽乃はやっぱり世界で一番可愛かった。
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