いつだって僕の居場所になる君に



「滝沢くん、あの……」

 ぼんやりと話し掛けてきた女を見る。確かこいつは……うーん、わかんね。

「……何」
「あっ、もう6時だから代わります」

 時計を見れば確かに短い針が6を指していた。ああ、バイト終わった。女は6時からのバイトらしい。楓が「ナナちゃんおはよう」と挨拶をしていた。楓が何か話しているのをぼーっと聞きながら着替え控室を出る。そうしたらドリンクの補充をしていた女が「滝沢くん」と話し掛けてきた。

「あの、これ、もしよかったら……」

 女が差し出していたのはピンクの紙で包装された長方形の箱。突然のプレゼントに訝しげに女を見ると女はどんどん縮こまっていった。

「英司ほら、バレンタインじゃん。俺も貰ったし、ほら、お前も貰えよ」

 バレンタイン……バレンタインか……
 それに手を伸ばそうとした時。ポケットの中で携帯が震えた。ディスプレイに映る名前を見て、ふっと笑った。

「陽乃」
『あ、もしもしエージさん?今お城に来たんですけど、今って……』
「今から帰るからちょっと待ってて」

 電話を切って女を見る。そして。

「ごめん、バレンタイン貰うの一人だけって決めてんだ」

 そう言ってコンビニを出た。残った楓と女が

「あんな優しい顔初めて見ました……」
「うん、まあ、男なんて星の数ほどいるんだから」

 そんな会話をしていたことなど、俺が知る由もないのだった。
PREVBACKNEXT


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -