エッチな下着で誘惑



「あ……っ、武くん…!」
「凛、気持ちいい……?」
「うん……、武くんは……?」
「俺も気持ちいいよ」

 大好きな武くんの腕の中。優しい声と熱いカラダのギャップにクラクラする。

「もっと、激しくして……っ」
「凛は本当にエッチだね」

 武くんの動きが激しくなって、二人一緒に昇りつめる。あぁ、幸せ……!

「武くん、好き……!」
「俺も愛してる」

 武くん……!

 ドッシーン!!

***

「ぶひゃひゃひゃひゃ!エロい夢見て、ベッドから落ちるって……!どんだけ……!ぶひゃひゃひゃひゃ!」

 ……コイツに言ったのが間違いだった。大学の中庭で目の前の男・田上蓮、通称れんこんに今朝の出来事を言ったら大爆笑された。今朝の出来事というのはもちろん、大好きな彼氏・武くんと念願の初エッチをする夢を見てベッドから落ちたことだ。

「お、男でもエロい夢見て興奮するなんて、たまにしかねーぞ!ぶひゃひゃひゃひゃ!」
「……あのね、蓮。凛だって本気で悩んでるんだからそんなに笑わないの」
「加奈ちゃん……」

 隣に座っていた親友の大橋加奈子、通称加奈ちゃんに抱き付けば加奈ちゃんはよしよしと慰めてくれた。ちなみにれんこんと加奈ちゃんは幼馴染みで高校生の時に付き合っていたらしい。れんこんの女癖が悪すぎてすぐに別れたらしいけど。

「それにしても、もう付き合って半年だっけ?お前確かに抱く気になれないほど色気ねーもんな」

 ようやく落ち着いたらしいれんこんがまた傷付くことを言いやがった。れんこん……、もっと酷いあだ名つけてやろうか。

「きっと大事にしてくれてるんだよ。武くん大人だし」
「そ、そうかな……」

 武くんは私たちの6つ上。今26歳の社会人だ。カッコよくて優しくて最高の彼氏なんだけど。不満はキス以上のことを何もしてくれないこと……。キスも、軽くチュッてするくらい。大好きな武くんと、早く一つになりたいのに……。

「どうしたら武くんがそういう気分になると思いますか?!」
「そりゃあ、お前が手出したくなるくらい色っぽい女になるしかねーんじゃねーの?」

 色気……。私には確かに欠片もない。でも色気ってどうやってつけるものなんだろう。

「このヤリチン、田上蓮様に任せなさい!」

 そう言って高らかに笑ったれんこん。……自分でヤリチンって言ってりゃ世話ないよ。
 そして授業が終わった後、私たち3人はショッピングモールに来ていた。れんこんが直行したお店。それは。

「ええええ、普通に入ってるよあの男!」
「はぁぁあ……」

 女性ものの下着売場だった。私の隣で加奈ちゃんが大きなため息を吐く。普通、男の人ってああいう店入るの躊躇うでしょ。

「いらっしゃいませ。今日はどのような下着をお探しで?」
「んー、色気のねー女でも抱きたくなるようなのかな」
「かしこまりました」

 しかも店員さんとの会話を聞いていると常連さんっぽい。どんな人生を歩んできたら女性ものの下着売場の常連になる男になるんだ……。

「こんなのはいかがでしょう」

 店員さんが持ってきたのは黒地に赤の薔薇があしらってあるものだった。それだけならまだいいけど、とにかく生地が小さい。あれじゃ大事なところを隠しきれないんじゃないだろうか。

「む、無理デス……」
「うん、確かに。凛って感じじゃねーな」
「そうですか……。ではこれはどうでしょう」

 次に店員さんが差し出したのは、白地にピンクの花があしらわれたものだった。可愛いけれど、問題は。

「ひ、ひも……」
「おー、いいんじゃね。これ」
「ひもだよひも!」

 さっきの黒いものより生地が大きいとはいえ、これもギリギリ隠せるかな?レベルだ。しかもひもパンだ。

「無理無理無理無理!」
「あのな、いつまでもお子さまパンツ履いてるからダメなんだよ。これにしろ」

 お子さまパンツじゃないもん!一応ちゃんとしたの履いてるもん!けれど意外に乗り気だった加奈ちゃんにも勧められ、結局それを買うことになってしまった。
 そしてその日の夜。私は早速その下着を着て武くんの家に来ていた。
 いつもより身に付けている下着の範囲が狭いせいか落ち着かない。ていうか、色っぽい下着を着けてもどうやって見せるんだろう。今まで武くんと一緒にいても裸になるなんてのはもちろん、下着姿になったこともない。い、意味ないんじゃ……。
 ごちゃごちゃ考えてそわそわしていると、玄関から鍵を開ける音が聞こえてきた。か、帰ってきた!!

「ただいま。来てたんだ」
「お、おかえりなさい!」

 武くんはスーツを脱ぐために寝室に向かった。なんとなく、無意識についていく。

「……何?」
「え、ううん。何でもない」
「着替えるんだけど」
「うん」
「……」
「……」
「……」

 あ、これって無言で出ていけって言われてますよね。

「はーい……」

 私は大人しくリビングに戻った。

「武くん!ご飯作ったよ!」
「マジで?何?」
「シチュー作ったの」
「おー」

 寝室から出てきた武くんはそのままキッチンへ向かうと、コンロの鍋の蓋を取って覗き込んだ。

「うまそう」
「ほんと?!お腹空いてるでしょ?食べよう」

 そう言いながら武くんの背中に抱き付く。大きくて温かい背中。はぁ……、抱かれたい。胸をギュッと押し付けてみる。そしたら武くんムラッとして……なんてことはないかな。

「……凛」
「っ、は、はい!」
「お腹空いたから食べよう」

 武くんはそう言うと私の手を外してリビングに戻ってしまった。はぁ……。寂しいな……。

「ん、美味い」

 武くんはシチューを食べて微笑んだ。ツンツンツンデレな武くんのデレは貴重だ。

「ねぇ、武くん」
「ん?」
「明日お休みでしょ?」
「うん」
「なら今日……、お泊まりしていい?」

 ダメ、って言われたら、ここで今日は終了だ。でももしいいよって言われたら……、まだチャンスがある。武くん……

「いいよ」
「っ、え」
「ん?だからいいよ、って」

 ううう嘘……!半年付き合って、初めてのお泊まり……!

「べ、ベッドで一緒に寝ていい?」
「うん」

 武くんは何でもないことのようにクールに言うけれど、これってすごいことだ……!今日こそ……!って思ったらなんか緊張してきちゃったよ!

「ごちそうさま。俺風呂入ってくるね」
「は、はい!」

 武くんは自分の食器をシンクに持って行くとそのままお風呂に行ってしまった。一人きりになったリビング。私はよっしゃー!と小声で叫んでガッツポーズしたのだった。

***

「……凛」
「は、はい!」
「なんでそんなとこ座ってんの」

 お風呂から上がってきた武くんはこたつに入ってビールを飲み始めた。私も少しだけもらったんだけど。何となく恥ずかしくて部屋の隅に座っていた。本棚とテーブルの間に。

「い、いやあ、なんかここ落ち着くんだよね」
「寒いからこたつ入れば」
「えっと、うん。そうだね」

 いつもは武くんに鬱陶しがられるくらいくっつくのに、何だか今日は意識しちゃって無理だ……!私は立ち上がるとぎこちない動きでこたつに向かった。右手と右足が一緒に出ていたから途中で急いで直した。

「お、お邪魔しまーす……」

 武くんの向かい側に座ると、武くんがじーっと私を見つめてきた。

「な、何か……」
「何か凛今日おかしい」

 ギクッ!わかりやすく体を震わせた私を見て武くんは深いため息を吐く。あぁ、面倒だと思われたのかな……。シュン、と俯いた次の瞬間だった。

「きゃ……!」

 突然抱き上げられて心臓が止まったかと思った。見上げれば武くんの横顔。武くんはそのまま寝室に向かった。もしかして、とうとう……。
 ドサッとベッドに下ろされて武くんが覆い被さってくる。恥ずかしさと不安が心を襲ってきてギュッと目を瞑る。武くん、少し怖いけど私はいつでも準備OKだよ……。
 だけど、いつまで経っても武くんからのキスは降ってこなかった。不思議に思って恐る恐る目を開けると。

「凛」

 私を優しい顔で覗き込む武くんがいた。

「武、くん……?」
「体調悪いなら言ってよ」

 ……はい?

「真っ赤な顔でなんか今日ずっと様子おかしかったから」
「え、あ、あのね、武くん……」
「俺ソファーで寝るから。ゆっくり寝て。おやすみ」

 ち、違ーう!!

「武くん、待って!」

 武くんのパーカーの裾を急いで引っ張る。武くんは驚いた顔で振り向いてベッドに座った。

「体調悪くないの」
「え」

 着ている服のボタンを上から少しずつ外していく。

「凛、ちょっと待って」

 珍しく慌てた様子の武くんが私の手を握って制した。

「どういうこと?」
「……」
「凛」

 胸がギュッと苦しくなる。どうしてこんなにうまく行かないんだろう。

「あのね、武くんが何もしてくれないの、私の色気がないからかなって、思って……」
「……」
「色っぽい下着、着てきたの……」
「……」
「武くん、私のこと好き?」

 本当は付き合ってから半年間ずっと不安だった。まだ片想いしてる時に武くんの元カノさんを見たことがある。すっごく綺麗で大人で色っぽくて、童顔で子どもっぽい私とは対照的な人だった。
 武くんはどうして私を好きになってくれたんだろう。それとも本当は私のこと好きじゃないのかな。そんな不安を、私はきっと武くんに抱かれることでなくしたかった。

「凛……」

 泣き出した私の頭に武くんの大きな手が乗る。その手はそのまま降りて行って、私の服のボタンをゆっくり外して行った。

「た、武くん……?」
「見せて、色っぽい下着」
「え、え……」

 緊張して固くなる私を気にもせず武くんはどんどんボタンを外して行って、とうとう全て外されてしまった。

「うん、可愛いよ。凛」

 武くんの視線が恥ずかしくて開いた服を閉じようとしても武くんに手を握られて無理だった。

「凛、聞いて」
「……っ」
「不安にさせてごめん。今まで手を出さなかったのは、凛が色っぽくないとか凛のことを好きじゃないとかそういうことじゃない。ただ、大事にしたかった」
「武くん……」
「だって凛、初めてだろ?」

 真っ赤な顔でコクンと頷くと、武くんは優しい顔で微笑んだ。

「本当は、全部わかってた」
「え……」
「凛がそういうことしたがってるのも、今日様子がおかしかった理由も」
「う、嘘……」
「ほんと。でも凛、自分からは無防備にくっついてくるくせに俺から触ったら固まるでしょ?」
「う……」

 ば、ばれてたんですネ。

「俺だって凛のこと抱きたいよ。でもちゃんと凛が大丈夫になるまで待つから」
「武くん、抱き付いていい?」
「いいよ」

 武くんに抱き付く。大きくて温かい武くんの腕の中はすっごく幸せで。あぁ、私武くんを好きになってよかった。

「武くん」
「ん?」
「好き好き好き好き大好き」
「知ってるよ」
「武くんは?」
「そうじゃなかったら付き合ってない」
「ちゃんと言って?」
「……好きだよ」

 半年間付き合ってきて、やっと武くんとちゃんと気持ちが通じあった気がした。

PREV|BACKNEXT
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -