「なあ、ほんとにあの課長と付き合ってんの?」

 屋上で1人お弁当を食べていたらまたあの男がやってきた。しつこさにげんなりする。気分が悪いのでどこか別の場所に移動しようとお弁当を片付けていると、男は隣に座ってコンビニで買ってきたらしいおにぎりを食べ始めた。マジか。

「失礼します」
「何でだよ!たまには昼飯でも一緒に食べようぜ」
「遠慮します」
「ほんとに別れたつもりかよ?!」

 顔を見るのも嫌、言葉を交わすのも嫌。そんな気持ちをいい加減汲んでくれないだろうか。私は無言で屋上を出る。その時に

「そんなだったらあの課長にもすぐ振られるからな!」

 と言われた。どうしてあんたにそんなことを言われないといけないのと思った。でも何だか心の奥の奥で小さなモヤみたいなものがチリチリとくすぶっているのも感じた。無性に課長に会いたいと思った。
 結局お昼ご飯は人気のない非常階段で食べた。薄暗くて電球が切れそうにチカチカしていたのでこっちまで暗い気分になった。屋上を奪ったアイツを恨むどころかあんたが電球変えろとまで思った。

「椎名ー」

 昼休憩が終わった後、黙々と仕事をしていると課長に呼ばれた。用件は当然仕事のことで、もちろん課長は真面目に話しているのだけれど、何故か色気を感じてしまう。顎に添えられた長い指だったり、セックスをする時に甘く細められる切れ長の目だったり、スーツの下に隠された引き締まった上半身だったり。

「以上。質問は?」
「ありません」

 淫らな気持ちを必死に心の中に押し込めて、私は自分の席に戻った。
 感情に左右されずに仕事に集中できるのは自分の数少ないいいところだと思う。課長に言われた仕事ももうすぐ終わる。給湯室でコーヒーを飲みながらホッと一息ついた。
 一人でボーっとしていると、給湯室のドアが開いた。「お、」という声に反射的にそっちを見ると、課長がいた。ドキンと大きく高鳴る心臓の音を必死で隠そうとする。よく考えたら課長に聞こえるわけがないのに。

「お疲れ様です」

 我ながらクールに挨拶できたと思う。

「お疲れさん。あー、肩凝るわ」
「マッサージしましょうか」
「お前には別のとこマッサージしてもらいたいからいい」

 どういうことだ。完全なセクハラ。私以外に言ったら飛ばされるぞ。私なら……別にいいけど。

「それ他の女の子に言ったらダメですよ」
「はあ?お前以外に言うわけないだろ」
「……」

 な、何だそれ。ほんとに?ほんとに私以外に言わないの?

「セク、ハラ……」
「俺のちんこでアンアン喘いどいて何言ってんだお前」
「ち……っ」
「セクハラっつーのは被害者が嫌な気持ちになったらダメなんだろ?お前は俺に抱かれんの嫌なわけ?」

 慌てて首を横に振る。この反応が正解なのかは分からない。

「ならいい。俺はお前を手放すつもりはないからな」

 な、何なのこの人……っ。頭の中で浮かれた自分が小躍りしている。この人は私の理性を狂わす天才かもしれない。

「あの……」
「あ?」
「抱きしめ、て、ほしいです……」

 何言ってんだ私。こんなの男の人に言ったの初めてだ。気持ちが抑え切れなくて、口を突いて出た。言った後にハッとなって手で口を押さえる。その手が大きくて熱い手に握られた。

「夜にな」

 完全に濡れました。

***

「お前さー、会社でメスの顔になんのやめてくんね?もう理性保つのに必死だったわ」

 ベッドの上に投げられて、課長が覆い被さってくる。ネクタイを外しながら近付いてくる課長は獣のようだ。
 あっという間に服を剥かれて裸になる。課長の家の、課長のベッド。課長の匂いに包まれて息苦しいほど激しいキスに溺れる。昼間から準備万端な私は、強請るように腰を揺らした。

「すぐ挿れてやるからちょっと待ってな」

 体を起こした課長はカッターシャツのボタンを外していく。もどかしくて、我慢できなくて、私は課長の下半身に手を伸ばした。

「あ、ちょっと待て。まだお前の体触ってねーから」

 課長の言葉も聞かず、ベルトを緩めた。スラックスに隠れていたそれはもう熱くなって上を向いている。我慢できなくなってパンツの上から口に含んだ。

「っ、オイ、待てって……」

 パンツの色が変わって亀頭にピッタリとくっついて形が分かる。子宮がキュンと疼いた。咥えながら舐めるとそれはビクンと跳ねる。課長の口から詰まったような呼吸が漏れた。
 抵抗をやめた課長の顔を見上げる。「んだよ、」とぶっきらぼうに言いながらも目の端が赤くなっていて、続けてもいいのだと判断した。私はまた課長の下半身に顔を寄せると、パンツを下ろした。逞しく熱く勃起したそれに舌を這わす。ビク、ビク、と痙攣しながら私の愛撫に反応するそれに、私の身体も火照ってくる。
 しばらく続けていると、課長が私の頭を撫でた。

「イキそうだから挿れさせて」
「ふぃっふぇふぉふぃふぃふぉふぃ」
「ちんこ咥えながら喋るとかエロすぎだろ。いいからいいから、はい」

 身体を離された私は課長のなすがまま、ベッドに横たわる。グイッと脚を大きく開かされると、さすがに羞恥心が襲ってきた。

「っ、や……っ」
「濡れないんだったっけ?」
「恥ずかし……っ」
「こんなぐっちょぐちょでエロい匂いさせてるけど」

 課長の顔の目の前に秘部がある。自分でも濡れているのはよく分かる。早く欲しくて、きゅうっと締めてしまっていることも。

「ほし、い……」
「あ?」
「誠司、さん、挿れて……」
「っ、お前ほんと天才だわ。エロの天才」

 エロの天才って何だ。そう心の中でツッコんだのも一瞬。入口に熱いのが触れたと思ったら、すぐに肉を割って入ってきた。慣らされていないそこに感じるのは圧迫感と違和感。でもすぐに馴染む。パズルみたいにピッタリとくっついて一つになる。

「っ、クソ、相変わらず……」
「あっ、あっ、ああっ、気持ちいい……っ」

 離れたくなくて課長の腰に脚を絡ませる。少しの隙間もいらない。全部全部ぴったりとくっついていたい。

「あっ、はぁ、んんっ」

 グリグリと腰を押し付けられる。くちゅくちゅと舌を絡ませながら、唇を貪った。

「動かなくてもイキそうなんだけど。ヤベーなほんと、ハマりそうだわ」

 ズッ、ズッとゆっくりと動く課長は気持ち良さそうに熱い息を吐いた。全部官能的。きゅんきゅんと体と心が疼く。

「もっと、抱いて、ハマってほしい……」

  そう言った途端、課長の目が野獣みたいに光った。激しくなる動きに翻弄される。本当に獣みたいに何度も貪られて、私は何度も絶頂を迎えたのだった。



「今日も名器でした」
「やめてくださいその感想……」

 体が怠くて動ける気がしない。……と、理由を付けて課長の腕枕で横になる。課長は満足そうに笑って何度も私の額にキスを落とす。何だか愛されてるような気分になる。

「またいつでも抱いてやるからな」

 何か私がそればっかり考えてるみたいだからやめてほしい……違うとは言えないけど。
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