プルルルルとけたたましい音を立てて電車がホームに滑り込んでくる。私は降りてくる人を待ってから1人電車に乗り込んだ。平日の昼間は人もそんなに多くなく、電車は朝に比べれば空いている。立っている人も多くないので、すぐに見つけられた。

「こんにちは」
「おう、休みに呼び出して悪いな」
「いえ」

 立っていた私服の課長の隣に立つ。爽やかな白シャツにジーンズ。スタイルがいいからシンプルな服装が似合う。いつもと違う大きめの腕時計も、男らしい腕に似合っていた。

「今日なんか予定あった?」
「特には」
「そうか。ならよかった」

 会社が入っているビルの点検で元々休みだった今日。特に予定もないので何をしようか悩んでいたところ、課長から電話がかかってきた。暇なら付き合えと。課長と話すのは楽しいし、せっかくの休みになんてことも思わなかったので承諾した。
 ただ、どこに行くのかは聞かされていない。今までの私の経験だと、街金か。いや、でも課長に借金はなさそうだ。腕時計は高そうだし、シャツもブランドもの。代わりに借金させられるわけではなさそう。

「なに、険しい顔して」
「いえ、どこに行くのか考えていて」
「あ、言ってなかったか。水族館」
「水族館……」

 これ、もしかしてデート?

***

「お、鮫だ」
「美味しそう」
「ちげーだろ。水族館に連れてきがいのない奴だな」

 正直鮫が美味しそうだとは私も思っていない。緊張しているのだ。だって、こんな普通のデートなんてはじめてだ。課長は私の隣でリラックスしたように笑っている。緊張しながらも、こんな風に穏やかな気持ちになれるのははじめて。

「課長」
「あ?」
「デートって楽しいんですね」
「……」

 思わず顔が綻ぶ。デートってもっと、相手の顔色を伺って、気を張らなくちゃいけないものだと思ってた。課長は私の言葉で機嫌が悪くなったりしないし、私の希望を聞いてくれる。話も聞いてくれる。自分を尊重してくれる人といるのは、楽だ。

「……お前ってさ」
「はい」
「名器な上に可愛いな」
「だからそのいちいち名器って言うのやめてください」
「はいはい分かったからペンギン見ようぜ」

 なんで私がわがまま言ったみたいになってるんだ。でも、さりげなく握られた手が暖かくて優しくて、胸がいっぱいになった。

***

 子宮と心って繋がってるのかも。

「うあー、やべーなマジで……」

 私の中にゆっくりと挿入してきた課長の眉間に皺が寄る。デートで幸せな気持ちになったまま課長の家にホイホイ上り込んだ私はねちっこい愛撫に何度か達した後、繋がった課長自身を自分でも分かるくらいぎゅうぎゅうと締め付けてしまった。自分の身体が自分のものじゃないみたいに、勝手に動く。中も、脚も、課長に絡み付いて離れない。

「あ、ん、かちょ……」
「エロい動きすんなコラ。やべ、ちょっと動いたらすぐイキそ。ちょい休憩な」

 正常位で入ったまま、課長は額の汗を拭う。早くいっぱい動いてほしいのに。中に感じる圧倒的な存在感と、快感への期待で頭がおかしくなりそう。

「あ、ああ、ん」
「コラ、動くなっつの、ちょ、オイ……っ」

 我慢できなくて、ゆるゆると腰を動かす。出たり入ったりする感覚が気持ちよすぎて、必死で動いた。

「あー、クソ、お前のせいだぞ」

 ギラリと課長の目が光った気がした。

「ひっ、ああっ」

 腰を掴まれて、ガツガツと奥を抉られる。待ち侘びた快感に身体がぶるりと震えた。

「あっ、あっ、あっ」
「あんま、持たねーぞ……っ」

 歯を食い縛って眉間に皺を寄せる課長の顔はとてつもなく色っぽい。手を伸ばしたら、その手を強い力で握られた。

「あっ、かちょ、」
「名前で呼べ」
「せ、じさん」
「ああ」
「せいじ、さん」
「あー、クソっ」

 ズンズンと激しく奥を突かれ、背を仰け反らせる。荒い息の中、誠司さんの「イく……っ」という声が聞こえて。同時に頭の中が真っ白になった。

***

 いそいそと服を着込んでいると、ベッドの中の課長が気怠げに私を見た。

「もう帰んの」
「?はい」

 課長はわざわざお湯で濡らしたタオルで全身を拭いてくれた。体を重ねた後こんなに優しくされるのは課長がはじめて。全部、はじめて。

「泊まってけば。明日休みだし」
「迷惑でしょうし」
「迷惑だったら夜に家連れ込んで2発もヤったりしねーっつの」

 セックスが終わった後、体が怠くて寝転んでいるとまだいんのかよっていつもため息を吐かれた。だから終わるとすぐ服を着て家に帰るものだと思っていた。泊まる選択肢もあるのか。
 考えてみる。体は怠い。できたらこのまま眠ってしまいたい。外は当然真っ暗だし家も真っ暗。目の前には課長にくっつきながら眠れるベッド。……答えは明白だった。

「……失礼します」
「おー、入れ入れ」

 私はまたさっきまでいたベッドに戻った。課長はぎゅーっと抱き締めてくれる。うわ、なんだか、すごく幸せ。

「こっち向け」
「はい……んっ」
「おやすみ」

 これはまさか、おやすみのチューというやつか。満足そうに微笑んだ課長は目を閉じた。だから私も課長の腕の中、安心して目を閉じたのだった。
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