高校生の時、隣の席の男の子が気になった。いつでも目で追ってしまったし、話せると嬉しくて楽しくて、彼の周りだけキラキラ見えたりして。
 でもある日、友達に言われた。

『私、あの人のこと好きなの。由紀はモテるしすぐ他に彼氏が出来るだろうから、諦めてほしい』

 と。そうか、私は彼への想いを捨てなければならないのか。そう思った瞬間、私は彼への興味をなくした。話すこともなくなった。後から彼に告白された時も何の感情もなく断った。私は彼を諦めたのだ。



「椎名」

 終業後、エントランスに出ると課長に会った。どうしてか、彼の周りだけキラキラしたままだった。

「あ、加藤さんはどうでしたか?」
「ああ、貧血だって。あんま寝れてなかったらしい。んな働かせたつもりなかったんだけど。今から人事行って説明しねーと」
「そうですか」

 今まで付き添っていたのだろうか。何故か胸がちくりと痛んだ。

「あのさ」
「はい」
「さっきのあれ、どういう意味。向いてないって」

 まさか今聞かれると思わなくてぐっと息が詰まる。心臓が嫌な音を立てた。

「人事に呼ばれてるんでしょう?早く行かないと」
「話逸らすな」

 怒ってる。それはすぐに分かった。でも何故かは分からなかった。これは私の問題だ。私が恋愛は出来ない、それだけの話。

「はぁ。今から人事で怒られんのにプライベートまでごちゃごちゃしてっとさすがにキツいんだけど」
「そんな、課長は何も……」
「部下が倒れんのは上司の責任だろ。で、お前は癒してくんねーの」

 言葉に詰まる。癒す、つまり……

「セックスするんですか?」
「……」
「それだけなら別に……」

 気持ちが伴わなければいいだけだ。身体を合わせることに、そこまでの意味はない。

「お前、可哀想だな」

 課長の言葉がナイフみたいに胸を抉った。そうか、私可哀想なんだ。

「そうですね、可哀想なのかも。まともな恋愛出来ないし、都合のいい女になっちゃうし」
「いや、悪い、言葉間違えた。椎名は初恋なんだよな。どうすりゃいいのか分かんねーんだよな」
「そうですね。分かりません。でも、分かろうとも思いません」
「だからさ、お前そうやって簡単にやめようとすんな」
「こんな可哀想な女より、もっといい人がいますよ。それじゃあ、私帰ります」
「待ってろ、絶対。人事との話すぐ終わらせるから、絶対待ってろよ」

 笑顔で彼を見送った。何で、どうして、後ろ姿にこんなにときめくの。諦めるのは簡単なはずなのに。
 後ろ姿が涙で滲んだ。苦しい。吐きそう。
 待てなかった。こんなに惨めな自分を見られるのは嫌だった。課長から鬼のように電話がかかってきたけれど20回目にとうとう電源を切った。
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