もう半分の夜が明けるまで
荷物を整理していると面白いものがたくさん見つかる。一番興味をそそられたのは翔さんの高校の卒業アルバムだ。色気や雰囲気はそのままに、今より少し幼い翔さんの写真が載っていた。「わわ、翔さんも悠介さんも若い!」
「そうだね。悠介なんかやんちゃなのが顔に出てるね。今もだけど」
ちゃっかり悠介さんを弄るのを忘れない翔さんに笑ってしまう。クラス毎に別れた個人写真を見ながら、この中の何人が翔さんのこと好きだったのかなぁ、なんて。考えて少し切ない気持ちになる。
「すずちゃんのは?」
「私のは実家です」
「そっか。じゃあまた実家にお邪魔した時見せてね」
「はい、いいですよ」
「……うーん」
突然翔さんが眉間に皺を寄せて考え込むような顔をする。どうしたのかと翔さんを見つめると、翔さんは私の頬に触れた。
「やっぱりやめようかな。高校生の頃のすずちゃんを知ってる同級生に嫉妬しちゃいそうだし」
大真面目に言うからまた笑ってしまう。二人して過去に嫉妬していたなんて。翔さんは不思議そうな顔をしていたけれど、私があまりにも笑うからつられたように笑った。
「ね、翔さん、いいのあるんですよ」
「ん?」
ちょっと待ってて、と言って私は寝室の横のクローゼットに入った。
***
「お待たせしました!」
「ん?……っ!!」
スカートをふわりと浮かせ、くるんとその場で回ってみる。翔さんは私を見て固まってしまっている。私が着たのは、荷物の中に紛れ込んでいた高校生の時の制服だ。大学の学園祭の時にサークルで出店を出す時着るために、実家から持ってきたものだ。
「翔さん……変?」
「っ、変なわけない!すごく似合ってる!!」
翔さんは弾かれたように立ち上がると、私の目の前まで来た。そして、上から下までじっくりと見つめる。
「可愛い……天使かな……」
本気で感動したように言われると照れてしまう。まさかそんなはずないのに、翔さんの言葉は全て本音だから。
「翔さん」
「ん?」
「抱きついていい?」
自分で着ておいて恥ずかしくてたまらなくなってくる。そして、喜んでもらえるかなと思って制服を着た私を、翔さんは心の底から可愛いと思ってくれている。恥ずかしい、照れ臭い、嬉しい、そんな気持ちが混ざり合って。
「もちろん。おいで」
翔さんが腕を広げてくれたから、私は遠慮なくその胸に飛び込んだ。ぎゅうっと抱きついて息を吸うと、翔さんの香りが鼻から入って満たされる。
「もっと早く、出会いたかったなぁ……」
こうやって翔さんに抱きしめてもらったら嫌なこととか辛いこと、全部吹き飛ぶ気がするから。翔さんに出会うまでの人生であった嫌なこと、今でも記憶の片隅でちらちらと顔を出したりしないかもしれない。
「うん、俺もそう思う。まさか天使が実在するなんて」
「ふふ」
天使じゃないってば。
翔さんの手は背中から頭に回る。見上げると、優しい瞳と目が合った。
「翔さん」
「ん?」
「お腹に何か当たってるのは気のせい?」
「……。気のせいじゃないかもしれない」
少し頬を赤らめた翔さんにまた笑ってしまった。翔さんの顔が近付いてくる。そっと目を瞑ると全部の感覚が翔さんに満たされて、幸せな気持ちになった。
***
「いやらしい天使だね。こんな格好して」
目をギラギラさせた翔さんがベッドに横たわる私を見下ろす。こんな格好にしたのは翔さんなのに、と少しの不満を顔に出すと、翔さんはふふっと笑った。
「ここすごく勃ってるね」
「あん……っ」
中途半端にボタンが閉じたままのシャツ。胸だけを露出され、ブラから飛び出した乳首を翔さんが指でぴんと弾く。勃ち上がった乳首は更なる刺激を求めてふるりと揺れた。
「どうしてほしい?」
翔さんはとっても優しい笑顔で問いかける。もちろん答えは分かっているはずだ。意地悪に私の恥ずかしい言葉を引き出そうとしている。羞恥心から躊躇したのは一瞬だった。恥ずかしいなんて気持ちを大きく超えるそんな快感を、翔さんに抱かれ尽くした私はとっくに知っているのだ。
「私の、ちくび、ぺろぺろして、いっぱい可愛がって……?」
翔さんの興奮を煽るようにわざといやらしい言葉を使う。翔さんの喉がゴクリと上下した。
「いいよ。すずちゃんのえっちな乳首、いっぱい可愛がってあげるね」
指でくりくりと押されるだけでもうイキそうだった。背を仰け反らせると、背中に腕が回って抱き締められる。動けないようになった私の身体は、翔さんの腕の中で跳ねた。
「あっ、ああっ」
翔さんを誘うように赤く勃ち上がった乳首は舐められるとテロテロと光り更に卑猥になった。舌で転がされ、ちゅ、と吸われる。もう片方の乳首は背中から回ってきた手にいじめ抜かれた。
「も、ダメ、翔さん、気持ちい……っ」
「いいよ、すずちゃん。もっと気持ちよくなって」
快感を素直に拾う。抑えられない声は寝室中に響いた。
「っ、あっ、あっ、あああっ!」
びくん、びくん、と腰が跳ねた。頭の中が真っ白になる。翔さんの唇が首筋や顔に何度もキスを落とした。
「乳首だけでイッちゃったの?」
「っ、はぁ、あっ、は……」
話すことすらできない私の感覚が蘇ったのは、股間に熱い何かを押し付けられた時だった。いつの間にか起き上がった翔さんが私の脚の間にいる。
「あっ、待っ……っ!!」
まだ解されていないそこは翔さんのそれを押し返すような動きをしたものの、奥まで来るとすぐに締め付けた。形を覚えているような、そんな動きに変わる。私はあまりの刺激にシーツを掴んで何とか快感に耐えようとする。
「すごい締め付け。軽くイッたね?」
ぎゅうぎゅうとそれを締め付け、中が収縮しているのが分かる。翔さんがはぁ、と熱い息を吐いた。
「あっ、あっ、かけ、るさ、おねが、」
「ん?」
私が言いたいこと、分かってるくせに。恥ずかしいことを言うと私の身体が更に敏感になるのを分かっていて、あえて分からないフリをしている。
「うご、いてぇ……!」
満足そうに微笑んだ翔さんが見えたのは一瞬だった。ズン、と一番奥まで突かれて目の前に星が飛び散る。がっ、はっ、なんて声にもならない音が口から漏れて、私はぎゅっとシーツを掴んだ。
「あっ、あっ、はぁっ、ああっ」
「っ、すずちゃん……」
激しく腰を打ち付けていた翔さんが、私を抱き締める。そして顔や首筋に何度もキスを落とす。抱き締められていることで快感から逃れる術もなく、私は翔さんの腕の中で身悶えた。
「可愛い、すずちゃん……」
身体を起こした翔さんは、突然中から抜けていった。快感を享受していたそこはうねり、物欲しそうに揺れる。ぼんやりと翔さんを見つめていたら、私の顔の隣に来た。
「舐めて」
前なら、躊躇していた。だって、自分の中に入ったものだから。えっちな匂いがするし、えっちな液体もついてるし。でも。
「んっ……」
「すずちゃんはほんとにかわいいね」
全く躊躇うことなく口に含むことができるようになったのは、翔さんの変態が移ったのかそれとも、自分も元々そうだったのか。翔さんに出会うまでセックスで感じたことのない私には出ない答えだった。
咥えて頭を上下させる。じゅぽ、じゅぽ、といやらしい音が出て興奮した。大きいから顎が痛いけれど、翔さんが頭を撫でてくれるから頑張る。まるで思考停止してるみたいな、そんな、
「んんっ……」
指が中に入ってきた。さっきまで翔さんのそれが入っていたそこには物足りない太さだけれど、それぞれの指が違う動きをして色々な快感が生まれる。イキそうになって口の方が疎かになると奥まで突っ込まれた。息が出来なくて苦しい。翔さんを見上げると、また喉が分かりやすく上下した。
「……ダメ、もう無理。イキたい」
そう呟いて突然口から引き抜かれたそれは、今度は私の中に一気に突っ込まれた。さっきまで中にいたそれに、私の中は簡単に馴染む。腰をしっかりと掴んで奥まで何度も突いてくる。翔さんが呟いた。
「制服姿のすずちゃんに中出しするってなんかちょっと罪悪感」
ちなみに私は自分が制服を着ていることすらすっかり忘れていた。シャツははだけてお腹で頼りなく揺れているし、スカートもお尻を隠してすらいない。
「っ、俺の精子、いっぱいあげるね……っ」
「っ、うん、ちょうだい、いっぱい、翔先生の精子……っ」
先生とつけたのはちょっとしたお遊びだった。でも翔さんはカッと目を見開いてガツガツと腰を振ると、私の一番奥に大量の精子を吐き出した。ぐりぐりと押し付けて、精子を子宮に塗りたくられているような、そんな感覚がした。
「せんせいのせいし、あつい……」
「っ……、すずちゃんのせいで、復活した」
もしかして翔さんの中の新しいドア開けてしまったかもしれない。
「違うよ?すずちゃんが可愛いから興奮したんだよ?決して制服だからじゃないからね?いや、制服にも興奮したけど、それは可愛いからであって、決してそういうプレイにじゃなくて……」
終わった後そうやって必死で言い訳していたけれど、抱き潰しといてよく言うな、なんてちょっと冷静な頭で思っていただけだった。
「また着るね……?」
「……。お願いします」
「アハハ!」
「いや、だから違うって……!」
翔さんの中にはもしかしたらまだまだ新しいドアがあるかもしれない。動かせない体の中で唯一働いている脳の中で、そんなことを考えていた。