大学へ行こう
次の日の昼休み。
「ねぇ、昨日エージ見たんだけど!」
友達の大声が教室中に響いた。私はもちろん体をビクリとさせてしまって莉奈に思いっきり睨まれた。
どこでどこで?何してたの?どんな感じだったの?やっぱりカッコよかった?その友達にいろいろな質問が飛ぶ。エージは目撃談あまりないもんなー。そんな声も聞こえた。
「駅前のコンビニでバイトしてた!夜の11時ぐらいに。なんかダルそうだけど、ものすごくカッコよかったよ!」
エージさん、コンビニでバイトしてるんだ。うん、エージさんはものすごくカッコいいんだよ。
「うふふ」
「キモイ」
莉奈さん、相変わらず手厳しい……
「それでね、カエデもいたの!」
楓さんも同じところでバイトしてるんだ。そういえば昨日一緒に出て行ったもんね。
「もうあのコンビニの常連になるー!」
そんな声が教室中から聞こえた。やっぱり『EA』人気はすごい。教室中がガヤガヤする中、エージさんと楓さんを目撃した娘が声を張った。
「今日さ、『EA』の大学行かない?」
…………え。
「行くー!」
教室中でそんな声が聞こえる。……どうしよう。ものすごく行きたい。だってだって!普段の『EA』が見れるチャンスなんだよ?!……いつも素のメンバー見て るけど。ドラマーの全裸も見ちゃってるけど。だけど!『大学生』なメンバーは見れないもん。普通に学生してるメンバーも見てみたい!
「ねぇ、莉奈ちゃーん……」
「行く」
「へ?」
「私も行く」
そう言って、莉奈が立ち上がった。なんとなく意外だった。確かに莉奈は追っかけするぐらい『EA』のファンだけど。そういうプライベートなところにまでは首突っ込みたくないって前に言ってたから。
「ハルも行く?」
クラスメイトの声に、私はポカンとしたまま頷いた。
「ねぇ、莉奈……」
「ん?」
「ほんとに行くの?」
「うん、あんたも行くんでしょ?」
「だけど……」
莉奈はニコッと笑ってそれ以上何も話さなかった。
そしてとうとう来てしまった、『EA』の大学。一旦家に帰って私服に着替え、駅前に集合して学校に来た。結局集まったのは私と莉奈を含めて10人程。私は初めての大学に、あからさまにテンパっていた。
「り、莉奈どうする……」
「は?」
「みんな私服だよ…」
「そりゃそうだよ。ここで制服着てたらコスプレだし」
莉奈ちゃん、落ち着いてるね……
「『EA』いるかなっ?」
友達ははしゃいでる。だけど私、今気づいた。こんなに広い大学で、あの4人を見つけるなんて不可能なんじゃ……と、思った時だった。
「リツだ!」
えっ……。友達が指差す方向に確かにいる、私の兄・片桐律。学生な兄を見たのは初めてで、なんとなく恥ずかしい。
「ねぇ」
「ん?」
ちょっと赤面する私に莉奈が耳打ちする。
「今思ったんだけどさ、私らが『EA』と知り合いだってバレたらマズいんじゃない?」
「……!」
たし、かに……。何も考えずに来ちゃったけど、友達に『EA』との関係がバレたら……袋叩き……!
そう思ったら、兄と会うのは一番めんどくさい。だって、楓さんならきっとその後の莉奈と私のことを考えてどうにかしてくれるはず。楓さんは頭の回転が早くて 気配りのうまい人だから。エージさんはもしかしたら私たちに気づかないかもしれないし、翼さんは気づいてもこんなに女ばっかりじゃ話しかけられないはず。……やっぱり兄は面倒だ……。
「どうする?話しかけるっ?」
「えー、でもリツはクールで話しかけづらいって聞くよ?!」
うんうん、だから兄に話しかけるのはやめようよ……
「だけどこんなチャンス滅多にないよ!」
「うん、そうかもー」
……話しかける方向で決定したらしい。どどどどうしよう!兄はまだ私たちに気づいてない!逃げるなら今だ!
「ハル、どこ行くの?」
友達にあっさり気づかれ逃亡は失敗した……。どうしよう……。真剣に泣きそうになった時だった。私の肩に手が置かれ、振り返るとそこにはよく知ってる王子スマイルのあの人がいた。彼はニコリと笑い、私に耳打ちをする。
「大丈夫。心配しないで」
甘い声は、確かに私の体中に染み渡った。奇跡かもしれない。こんなに広い大学で、こんなピンチにちょうど彼が現れるなんて。本当に王子様みたいだ。彼は肩に置いていた手を私の頭にやると、軽く撫でて手を離した。そしてそのまま兄のところへ向かう。
リツだけじゃなく、カエデも登場したことに騒ぐ友達。楓さんは兄に何か言っている。そして兄は驚いた顔でこっちを見た。一瞬目が合ったけどすぐに逸らされた。楓さんがうまく言ってくれたんだと思う。
「話しかけに行こ!」
友達がそう言って二人のところへ向かう。
「楓さんなんて?」
「大丈夫だから心配しないで、って」
「……そう」
莉奈の顔が曇った。
「莉奈……?」
「私たちも行こう。知らない人のフリしなくちゃ」
莉奈が笑顔に変わる。最近莉奈の様子がおかしいことに私も気づいてる。それがたぶん、楓さん絡みなことも。だけどどうしても聞けずにいた。どうして聞けないのかは自分でもわからないけれど。私は先に歩き出した莉奈を追った。
兄と楓さんはベンチに座っていて、その周りを囲む。
「あの、『EA』のカエデさんとリツさんですよね?!」
友達が聞くと、楓さんはいつもの王子スマイルで微笑んだ。その微笑みにやられてしまった数名は、真っ赤な顔で楓さんに見とれていた。
「君たちは高校生?」
「はいっ!」
「それなら制服で来てほしかったなぁ。そう思わない?律」
いきなり振られた兄は一瞬楓さんを見て読んでいた雑誌に再び目を落とした。
「ダメ。制服なんかで来たら野獣どもに食われる」
「律は高校生の妹がいるもんねぇ」
……ギク。
「あぁ。アイツが野獣に食われたらそいつ許さねぇ」
あ、兄……。ちょっと感動してしまう。なぜか兄の言葉に私以外の娘も感動していた。その時、制服のポケットに入れていた携帯が鳴った。きたメールを何気なく開いて、私の感動は一気に冷めてしまった。
『感動した?!』
いつのまに打ったのか、兄からのメールだった。こんなバカの言葉に感動した私が愚かだった……。
『バカ』
とだけ打って返してやった。
楓さんはやっぱりすごくて、少し話しただけで友達みたいになっている娘もいた。女の子の喜ぶツボを知ってるんだと思う。楓さんに本気で狙われて堕ちない女の子はいないんだろうな。
「エージさんはどこにいるんですか?」
その言葉に私の体は思わずビクンと揺れる。
「あぁ、エージねぇ……」
楓さんはそれに気づいたのか私を見てニヤリとした。
「たぶん家で寝てんじゃないの?可愛い目覚ましがいるから安心して」
「……っ」
か、楓さんの意地悪!わざわざそんな言い方しなくていいのにっ!赤面する私を見て楓さんは笑っていた。
「俺が大学案内してあげようか?」
楓さんは立ち上がるとそう言った。
「はいっ!」
友達も嬉しそうに返事する。さすが楓さん。ここにいる娘たちみんな骨抜きにしちゃった。
「私……行かない」
その言葉にみんなの視線が莉奈に向く。
「どうしたの?行きたくない?」
楓さんが優しく莉奈に聞く。莉奈は楓さんを見ずに首を縦に振った。
「ここにいてもいいよ」
そう言ったのは兄だった。兄の言葉に頷くと、莉奈は兄の隣に座った。その莉奈を見る楓さんの目は……見たこともないくらい冷たかった。
「ハルはどうする?」
「あ、あの……」
「行ってきな」
莉奈が微笑んで言う。莉奈のこと心配だけど……、兄がいるなら大丈夫かな。
「ごめん。ちょっと行ってくるね」
私は莉奈にそう言うと楓さん軍団に加わった。
「大学って楽しいですか?」
「うん、超楽しい」
「練習はどこでしてるんですか?」
「俺ら専用のスタジオ」
「へー、行ってみたい!」
「残念だけど身内しか入れないんだよね」
楓軍団の会話は途切れることはない。だけど、私はどうしてもその中に入れなかった。さっきの、楓さんと莉奈のやりとりが気になって。どうして楓さんはあんなに冷たい目をしてたんだろう……。昨日はキスしてたのに。もしかして翼さんが言ってた、『自分と簡単に体の関係を持つ女を楓は軽蔑してる』って言葉と関係あるのかな……。
「ハルちゃん。だっけ?」
ふと気づくと、楓さんが私を振り返っていた。
「へ、は、はい!」
「あんまりよそ見してると迷子になるよ?」
「ほんとだよ!ハルはボーっとしてるから!」
「そ、そんなことないもん!」
ねぇ、楓さん。莉奈のことどう思ってる?莉奈はたぶん、楓さんのことが……。
そんなことを考えてたら本当に、迷子になっちゃいました。こ、こんなのってあり?!もう、この大学広すぎるんだよ!兄と莉奈のところに戻ろうにも場所わかんないし!どうしよう……。エージさん。エージさんの声が聞きたい。声が聞けたら、安心できるのに……。その時だった。
「英司くん!」
そんな、女の人の声が聞こえた。エージ、さん……?パッと前を見ると、確かに私の憧れの人がいた。そして、その隣には……本当に、綺麗な人だった。髪はサラサラで手足が長くて、モデルみたい。エージさんに、よくお似合い……。二人は一言二言話すと、挨拶をして離れた。そしてエージさんが私のいるほうに歩いてくる。私はどうしても動けなくて、その場に突っ立っていた。
エージさんは私の横を……通って去って行った。気づいて、もらえなかった。私、ちょっとエージさんに名前覚えてもらっただけで調子に乗っちゃってたのかも。スタジオかお城で会わなきゃ、エージさんは私に気づいてもくれない。こんなに近くにいるのに……。
「ハル?」
ボーっと突っ立っていると名前を呼ばれて、私の目の前に驚いた顔の翼さんが立っていた。
「翼さん……」
「お前何してんの?こんなとこで」
「うっ……私、迷子になっちゃって……っ」
「ちょっ、泣くなって頼むから……」
翼さんはかなりオロオロした様子で私の頭を撫でた。
「ごめ、なさ……っ」
だけどね、涙が止まらないの。迷子になったから?……違う。エージさんに、気づいてもらえなかったから……
「翼さん、私……」
「ん?」
「特別なんかじゃ、ない……っ」
名前覚えてもらったぐらいで特別なんて言えない。
「どういう意味?」
「今すれ違ったのに、気づいてももらえなかった……」
「ハル……」
翼さんの手が後頭部に回る。そして胸に引き寄せられた。
「翼、さん……」
「ハル、ちょっと黙ってて」
胸に顔を押さえつけられて少し苦しい。
「翼くん?」
さっきの、エージさんを呼んでたのと同じ声が聞こえた。
「あれ、彼女?」
「うん」
って、え?!
「そうなんだ、やっとできたんだ」
「………」
「私も英司くん頑張るから応援してねっ」
「………」
バイバイ、と声が聞こえて彼女が去って行く気配がした。彼女が去っても翼さんは私を離してくれなかった。
「………」
「翼さん?」
「ん?」
「離して、もらえると嬉しいです……」
「……あ!」
翼さんは無意識に私を抱きしめていたらしい。急いで離すと、翼さんの顔は真っ赤になっていた。
「さっきの、人は……」
「あぁ、俺と英司の同回生。英司のこと好きなんだって」
「……綺麗な、人ですね」
「そう?」
翼さんはかなり嫌そうな顔。
「嫌い、なんですか…?」
「うん」
そ、そんなハッキリ言わなくても……。
「英司、昨日もバイトで寝てないからすっげーボーっとしてた」
「……っ」
「話しかけても俺に気づかなかった。ヒドいよな?」
翼さんがさりげなく私を慰めてくれているのがわかった。翼さんは不器用だけど、すごく優しい人。
「スタジオ行くか」
そう言って翼さんは歩き出した。校門の近くに行くと、兄と莉奈がさっきと同じベンチに座っていた。
「あ、ハル!」
莉奈が私に駆け寄ってくる。翼さんはさっと離れた。
「律に楓さんからメールあったの。ハルがいなくなったって……」
「……あ」
そうだ私、楓軍団とはぐれちゃってたんだ。すっかり忘れてた。
「まぁ、翼に会えてよかったよ」
兄がそう言いながら携帯を取り出した。楓さんにメールしてくれてるらしい。
「俺ら今からスタジオ行くんだけど、一緒に行く?」
翼さんが言って、兄も立ち上がった。
「楓さんはいいの?」
「あぁ、アイツはたぶん今日は5時まで来ねぇよ」
「なんで?」
「週間業務」
「週間業務?」
「うん、週間業務」
兄はそれ以上何も言わなかった。楓さんは王子ですごく優しいけど、謎が多い人だ……。
私たちは4人でスタジオに向かった。翼さんは、私はもう平気みたいだけど莉奈に近づくのがまだ無理らしい。兄はそんな翼さんを莉奈に近づけたり傘でつついたりして遊んでいた。翼さんはいじられキャラらしい。そういえば、楓さんも翼さんで遊んでたし……。
「……あ」
スタジオに入って翼さんがそんな声を出した。どうしたんだろう?って思って中を覗くと、翼さんの声の理由がわかった。めずらしく、エージさんがそこにいたから。エージさんはソファに座って、ギターを持っていた。そしてジッと私と翼さんを見る。
「………」
「………」
「………」
「座んねぇの?」
私と翼さんは急いでソファに座った。
「え、英司がギター弾いてるって珍しいな!」
「別に」
「……」
「あのさ」
「は、はい……」
「お前らなんで二人なわけ?」
「いや、あの、律とあの女の子も一緒だったんだけど、コンビニ行ってて……」
「翼」
「な、なんでしょう……」
「陽乃は近寄っても大丈夫なの?」
「……みたいです……」
「あっそ」
エージさんは翼さんを無表情で見つめて、ギターに視線を戻す。翼さんは明らかにオロオロしていた。皇帝エージ様は、ご機嫌が麗しくないようで……。
「俺、トイレ行ってくる」
そう言って立ち上がる翼さんの服の裾を掴んだ。二人にしないで!って願いをこめて。
だけどその願いは叶わず。翼さんは申し訳なさそうに私の手を掴んで服から離すと、逃げるようにスタジオを出た。
つ、翼さんのアホー!ヘタレー!そう心の中で叫んでも、もちろんどうにもならなかった。
エージさんと二人きりになったスタジオには、気まずい沈黙が流れていた。そしてエージさんは、ギターを置いた。
「集中できねぇ」
そう、低い声で言って。その言葉に胸がズキンとなる。もしかして、邪魔って言われてるのかな……。私は急いで立ち上がった。
「ご、ごめんなさい!帰ります!」
「なんで」
なんで、って……邪魔って意味じゃなかったのかな?
「なぁ」
「はい……」
「とりあえず座って」
エージさん専用(って最近気づいた)の一人掛けのソファに座るエージさんが私を見上げる。私はおとなしく隣のソファに座った。
「なぁ」
「………」
「なぁって」
「はい」
「なんで今日大学にいたの」
「へっ……」
き、気づいてたの…?!
「なぁ」
「気づいてた、んですか…?」
私がそう言うと、エージさんは顔をしかめた。
「お前、どんだけ俺をアホだと思ってんだよ。あんなとこに突っ立ってて気付かねぇほうがおかしいだろ」
確かに、そうだけど……
「じゃぁ、なんで…」
「あ?」
「エージさん、私のこと無視した……」
「あれは無視したわけじゃねぇ」
どういう、意味…?
「昨日、楓に近づくなって言われた」
「…え……」
「俺が近づいたら鼻血出すから近づくなって言われた」
「それで、無視したんですか?」
「だから無視したわけじゃねぇ。近づきたくても近づけなかった。鼻血出してぶっ倒れられたら困る」
……どうしよう。ものすごく嬉しい。嬉しすぎて泣きそう。
「ギュッてしていい?もう鼻血出さねぇ?」
どうしてこんなに、可愛いんだろう。エージさんは私が返事する前に私をギュッと抱きしめた。エージさんの腕の中は、当たり前だけどエージさんの匂いがした。香水なのか何なのかわかんないけど、甘い匂いがした。私は自分がこの匂いが大好きなことに気づいた。
「なぁ」
「はい」
「この間、言ってたことだけど」
「…この間…?」
何のことだろう?私なんか言ったっけ?キョトンとする私を見て、エージさんはため息をついた。
「忘れてんの?」
「…ごめんなさい……」
「はぁ……」
や、ヤバい。また皇帝の機嫌損ねちゃった……?
「まぁ、いいや」
「へっ」
「今は気分がいい」
そう言ってエージさんは笑った。さっきまで機嫌最悪だったくせに、わかんない人……。だけど、やっぱり嬉しかった。エージさんが笑ってくれるのは嬉しい。
「で、なんで大学いたの」
「あ……えっと、友達が『EA』の大学行こうって……」
「ふーん……」
「あの、エージさん」
「なに」
「そろそろ離れません?」
心臓がもうすぐ潰れちゃいそうなんですけど……。
「やだ」
「な、なんでですか!」
「だって陽乃プニプニしてて気持ちいい」
そう言ってエージさんは私の脇腹をつまんだ。
「ちょっ、セクハラです…!」
「陽乃。される側が嫌って思わなきゃセクハラにはなんねぇんだぞ」
なにその自信……!
「嫌です!」
「本気で抵抗してみろよ」
「本気です!」
「嘘だね」
あぁ、皇帝には敵わない……。それから私はエージさんの好きにされてしまった。遊ばれすぎて、放心状態になっていた。
「なんで白目?」
ってエージさんに言われて初めて自分が白目だったことに気づいた。エージさんの楽しいお遊びに終止符をうったのは、『週間業務』を終えたのかスタジオにやってきた楓さんだった。
「スタジオはイケナイことするところじゃありません」
あの楓さんに怒られた。すごくニヤニヤしながらだけど。
「楓、お前もやれよ。コイツ超プニプニしてて気持ちいいんだ」
エージさんが余計なこと言うから、私は二人の男に弄ばれる羽目になった。今度は白目になってることは自覚してたけど、自分ではどうにもできなかった。そして、やっと長いトイレから翼さんが戻ってきた。
「ちょっ、なにスタジオで破廉恥なことしてんだよ!」
そう言った翼さんは真っ赤だった。
「た、助けて翼さん……」
心の中でアホとかヘタレとか叫んだこと謝るから!だからお願い!
「お前も混ざるか?」
「ま、混ざるか!」
「アハハ、ハルちゃん超気持ちいいのにもったいない」
基本的に発言が妖しい!聞き方によってはかなり生々しい下ネタじゃん……。
「あっ、おい野獣ども!うちの大事な妹ちゃんになんてことしてくれてんだ!」
そこにやっと兄と莉奈が到着して、エージさんと楓さんを私から引き離した。
「んだよ、腹触ってただけじゃねぇか」
皇帝エージ様はふてくされて、王子な楓さんは「残念」と微笑んでやっと私は解放された。
「あ、そうだ」
楓さんが笑顔で私を見た。
「ハルちゃん、連絡先教えて?」
「へっ……」
「また今日みたいになったら困るから」
また迷子になったら困るってことだよね?は、恥ずかしい……。
「ごめんなさい…」
赤面しながら携帯を取り出すと、隣にいたエージさんがそれを取り上げた。
「俺が先」
やっぱり皇帝はこんな場面でも皇帝だった。そして私は『EA』のメンバー全員の連絡先を知った。