04

 ねぇ、どこ行くの?カナタくん!さっきからその言葉を甲高い声で繰り返している美和がうるさい。ぴたっと立ち止まり後ろを向くと、美和は黙った。

「そうだ、黙っておけ」

 冷たく吐き捨てると美和は素直に黙ったのだった。
 俺は適当なホテルに入ると美和をベッドに押し倒した。至近距離で目が合うと美和は恥ずかしそうに目を逸らす。

「カナ、タくん……」
「抱いてやる。だから父親に会いに行け」

 美和は、瞠目して俺の肩を押した。

「……いいや」

 起き上がりベッドに座ると、美和は俯く。その背中からは寂しさが滲み出ていて、細い体が更に細く見えた。

「……みんな、そう。面倒だから私の言う通りにするの。お父さんだって……、甘やかして放ったらかしにして。私、お父さんに見てほしかったんだ。ちゃんと、私のこと……」

 美和の金色の髪が揺れる。後ろに座っている俺からは見えないが美和は泣いているらしい。肩が微かに震えていた。

「そしたら突然学校にちゃんと行けとか怒り出して。将来後悔するのはお前だぞーとかさ。ばっかみたい。私のことなんかどうでもいいくせに」
「馬鹿はお前だ」
「え?」

 美和が俺を振り返る。つけまつげに縁取られた目には涙がやはり滲んでいる。

「父親も馬鹿だ」
「……」
「お前が父親に見てほしかったのは何故だ。父親がお前を叱ったのは何故だ」
「……」
「人間は馬鹿だ。伝えなければならないことを伝えない。素直にならない。そして後で後悔する」
「……」
「知っているか。人間には寿命がある。長いようで短いその時間の中でできることは限られている。お前の父親は随分時間を無駄にしたようだ。娘と向き合うことに時間を割かなかった」
「……」
「美和。お前の父親はもうすぐ死ぬ。末期癌だ」
「え……」

 美和の表情が変わる。父親からは言うなと言われていたが、この甘ったれた娘にははっきり言わないとわからない。

「え、う、嘘だよ、第一なんでカナタくんが知ってるの?だってカナタくん、」
「俺は死神だ」

 美和は信じられないといった表情で目を見開く。俺が突然現れた理由。父親の病気のことを知っている理由。俺のことを美和以外の人間が知らない理由。それらを全て死神だからで片付けるには少々無理がある。信じなくていい。どうせ父親が亡くなれば美和も俺を忘れるのだから。

「美和。人間の寿命は決まっている。時間には限りがある。今行かなければお前は後悔する」
「……」
「いいのか」

 美和は未だに驚愕に目を見開きながら小さな声で言った。行く、と。


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