03

 高校に着くと俺はまず屋上に向かった。そこに目的の人物がいると分かっていたからだ。

「カナタくん、おはよう」

 ドアを開けると同時、抱き付いてくる女。香水のキツイ匂いに顔をしかめると、女は可笑しそうに笑った。
 この女は今俺が担当している男の娘だ。男は末期の癌で、どうしても死ぬ前に喧嘩して家を飛び出してしまった娘に会いたいと言った。俺はどちらかと言うと任務は事務的にこなしたいほうだし、正直人間の死ぬ前にやり残したことなんてどうでもいい。こうやって人間を装って高校に来ることだって面倒で仕方ない。だが俺が世話になった人が言っていたのだ。

『俺たちは永遠の時を生きるから分からない。だからこそ時間に限りがある人間が必死で生きる姿は美しく見える。その人間の手伝いができるなんて、嬉しくないか?カナタ、お前もいつか気付くよ。人間は美しい』

 と。あの人はとにかくお人好しだった。その言葉に全く共感は出来なかったものの、知りたいとは思った。あの人の目から見て人間は美しいらしい。俺にはまだ分からないその美しさを、見てみたいと思った。

「会わなくていいのか。父親に」

 女、名前は榊美和と言う、美和は一瞬目を見開いた後ケラケラと腹を抱えて笑い出した。冷静な顔で見下ろしていると、美和はごめんごめんと言いながら笑い過ぎて目の端に滲んだ涙を指で拭った。

「だってさ、どうでもいいって思ってるのが顔に出てるんだもん」
「……」
「それなのに私を心配してるみたいなこと言っちゃって。うちの父親と一緒」

 笑いながらも一瞬寂しそうな横顔。人間とは本当に面倒な生き物だ。

「カナタくんがさ、抱いてくれたら会いに行ってもいいよ」
「……」
「だってカナタくん超タイプだし。いきなり現れて父親が父親がって言うから変な人だなぁと思ってたけど」
「……」
「でもね、変なんだ。私以外誰もカナタくんのこと知らないんだよ。こんなにカッコいいのに。ねぇ、カナタくんって本当は」
「行くぞ」

 美和の言葉を遮って手を掴む。ジャラジャラとアクセサリーのようなものが色々ついている細い手首は少し握っただけで折れそうで、見たところ末期ガンの父親と変わらない。この女は病気でもないのだからもっと太ったほうがいい。


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