sideカナタ

 カチャン、小さな音と共にポストに鍵が入れられる。怠い体を起こし玄関へ行くと、既に大柄の男・俺の家来兼世話係の洋平がポストから鍵を取り出していた。

「坊ちゃん。次の仕事ですよ」
「おいその呼び方やめろ。……ちっ、まだ今の仕事も終わってねぇっつーのに」
「まあまあ。お父上も大変なのですよ」

 洋平は俺に鍵を手渡すと、朝ご飯できていますよと言いキッチンへ入った。鍵を振ると、小さな紙が出てくる。
 神野芽衣子、68歳。高校生の孫がいる、か。
 ちいっ、と大きな舌打ちをしてリビングに入った。

「あの男は人使いが荒すぎるとは思わねぇか」

 カンカンとステンレスのコップを爪で弾きながら朝食をテーブルに並べる洋平を見る。今日の朝食は焼き魚とほうれん草のお浸し、玉ねぎとわかめの味噌汁。朝食はパン派だと口酸っぱく言ってもこれだ。この男は完全に俺を馬鹿にしている。俺の苛立ちに気付いているはずなのに余裕で笑っているのが更に俺の苛立ちを煽る。

「お父上もあなたと同様せっかちですから」
「俺はせっかちじゃねぇ」
「せっかちではない人はそんな癖を持っていませんよ」

 未だカチカチと鳴らしていた爪を顎で指されバツの悪さからすぐに手を引っ込めた。

「……とにかくだ。今の仕事はまだ片付きそうにない。アサヒに回せ」

 アサヒとは、俺の弟のことである。俺と同じ仕事をしているが、両親に甘やかされ自由気ままな生活を送っている。気が向いたら仕事をするという、真面目に忙しく仕事をしている俺からしたら小憎たらしい男だ。

「できません。お父上はあなたにやれと命令されています」
「だから、俺は……」
「命令、です」

 あえて命令を強調した洋平は、この話は終わりだとばかりにいただきますと手を合わせた。その態度にまた苛立ちながら箸で焼き魚をつつく。
 面倒臭ぇ。やっぱり俺はパン派だ。


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