「おはよう、幸」
「おはよ、ちぃちゃん」
教室に入ると、ちぃちゃんが声を掛けてくれた。ちぃちゃんの周りにいた子は私の姿を見るとヒソヒソ言いながらどこかへ行ってしまう。けれどちぃちゃんは全く気にしない様子で私の席まで来てくれた。
「今日ね、転校生来るらしいよ」
「そうなんだ……あ」
心当たりがある。彼はうちの高校の制服を着ていて、高校まで一緒に来た。
私の反応に、ちぃちゃんが大袈裟に反応する。見たの?どんな人だった?男の子?イケメン?すごい勢いで質問を投げ掛けられて、椅子に座っているのに後退りしてしまう。恋愛に対する女の子の興味は本当にすごいと思う。
「うーん、不思議な人」
「え?」
「すごく綺麗で、不思議な人」
彼の正体は一体何だろう。きっと人間ではない。でも不思議な人だった。人間じゃないのに怖くなくて、何だかすごく、温かい人。
「多分優しい人だと思う」
直感はよく当たるほうなんだ。
朝のHRで担任が彼を紹介した。イケメンだと色めき立つ女子の中、彼は涼しい顔をしている。
「席は神野の後ろ」
彼が私の隣を通って後ろの席に座る。そこは今まで誰もいなかった、机すらなかった席。さっきまで色めき立っていた女子がもう彼から興味を失っていることに驚く。
「神野さん」
隣の席の宮田くんが不思議そうに私を見る。ハッとして辺りを見渡して、秘かに振り向く。そこには確かに彼がいて、でも誰も彼を見ていない。不意に伏せられていた長い睫毛の隙間から、色素の薄い瞳が私を捉える。
「どうかした?」
なんで、どうして誰も彼を見ないの。彼は確かにここにいるのに。
「何でもないよ」
宮田くんに笑顔を向けた。また私の悪い癖が出たのかもしれない。そう思って。