01
 自分は一目惚れされるようなタイプではない。顔が飛び抜けていいと言うわけでもないしスタイルだって普通。若い頃はそれなりに遊んだりもしたが20代後半になってそんなことより仕事に夢中になって、いつの間にか彼女いない歴が三年を越えた。最後に付き合っていた彼女にはお決まりの「私と仕事どっちが大事なの」という台詞を吐かれ一気に嫌になって別れた。今は恋愛などいらない。だから、今目の前で美少女と言っても過言ではない女の子が顔を真っ赤にして俺を見上げていることを面倒だとさえ思っている。

「あっ、あの」
「何か」

 なるべく冷たく聞こえるように言った。面倒なことには関わりたくないと思ったからだ。
 駅のホーム、通勤ラッシュの今の時間帯、真っ赤になった美少女。既に面倒なことになっているとようやく気付く。周囲から好奇の目で見られひそひそと小さな声で言われているのがわかった。思わずため息をついた俺に美少女は体を揺らした。だが、決意したのか俺をしっかり見据える。……清楚で大人しそうな見た目によらず意外と気は強いのかもしれない、とそう思った。

「ま、えに、痴漢されてるの助けてもらって、それからずっと、好きで」

 痴漢?必死で記憶を辿る。そして一つ思い当たった。確か半年ほど前、痴漢されていた女の子を自分の後ろに隠してやった気がする。顔は見ていなかったし全く覚えていないが、それが彼女で、自分に好意を抱いてくれたということか?半年も?ちょっと怖いな、そう思ってしまった。

「ごめん、今恋愛とかしてる暇ないし、だから」
「え、じゃあ彼女いないんですか」
「……まあ、いないけど」

 彼女の整った顔がぱあっと輝く。いや、うん、可愛いけどさ。今は仕事が……

「私これから頑張って話しかけます!だから、お友達になってください!」
「いや、あの……」

 断ろうとしたら今度は眉尻を下げて子犬のような顔をする。……駄目だ、反則だ。この子はきっと自分の顔がいいことをわかってやっている。こんな顔をされて断れる奴がいるなら見てみたい。そう言い訳をして、俺は頷いていた。

「ありがとうございます!お仕事頑張ってください!」

 彼女は弾けるような笑顔で小さく手を振ると去って行った。あの……、名前とか……いいんですかね。不思議な子だな、そう思った。
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