兄の言葉と妹の快感


「やっぱりこうやって四人でお食事できるのはいいわね」

 お母さんの言葉に微笑む。久しぶりに奏が実家に帰ってきて、泊まると言い出した時、お父さんもお母さんも大喜びだった。奏は甘いものが苦手なのにわざわざケーキを買ってきて、奏は思いっきり顔を歪めたから笑ってしまった。
 突然実家に帰ってきた奏の真意は分からない。まぁ、奏はいつも何を考えているか分からないんだけど。

「愛美、彼氏とは上手く行ってるの?」
「えっ」
「今度また家に連れて来なさい」

 お母さんから彼氏の話を振られて、お父さんが知らなかったら何となく気まずいと思ったけれど、今の反応だと知ってたっぽい。彼氏とは上手く行っている。でも、今この話をするのは色々な意味で気まずい。

「奏にはいるの?」

 お母さんの無邪気な質問は奏と私の間に変な空気を作る。もしかしたら奏は気にしていないかも知れない。でも。

「面白いと思う子ならいるけど」

 爛れ切った奏の性生活で、奏が体の関係を持っている女の子なんて今現在だけで何人いるだろう。なのに奏が言っているのが私のことだと分かったのは。

「奏の彼女にも会いたいわ」

 そんな風に笑うお母さんの目の前で、奏が私の手を握ってきたからだ。テーブルの下、前に座るお父さんとお母さんにはきっと見えない。奏の手は私の手を握り、撫で、指を摩る。まるで愛撫されているような感覚に、私は息を乱さないように必死だった。

***

「二人の前でああいうことするのやめて」

 奏が家を出た日のまま置いてあった奏の部屋は、知らない匂いがする。奏が一人暮らしをしている部屋の匂いとは違う。お母さんがよく部屋を掃除して換気しているからか、奏の匂いが消えていくような感覚。

「……ねぇ」
「なに?」
「どうして家出たの?」

 お母さんもお父さんも寂しそうだよ。今日、奏が帰ってきただけであんなに嬉しそうだったのに。奏はどうして……

「愛美を抱きたくて仕方なくなったから」

 後ろから奏の手が肩に触れて、ピクリと大袈裟に反応してしまう。服はもちろん着ているのに、ひんやりとした体温が伝わってきて。奏ってどうしてこんなに手が冷たいんだろう。温めてあげたい、なんて乙女みたいなこと思わない。純粋な好意じゃない。でも思うんだ。好きじゃないとセックスしちゃいけないなんて、誰が決めた?好意じゃなくたって、心が通じ合うなら、安心するなら。別にいいじゃない。だって、私たちは。

「血、繋がってないし」

 奏はそう言って私の唇にそっとキスをする。激しく奪ってくれたら罪悪感だって忘れられるのに。ほんと、女の敵。

***

「二人の前でこういうこと、しちゃダメなんじゃない?」

 ベッドだと軋んじゃうから、立ったまま。中途半端に乱された服。下着が足首の辺りで心許なく揺れる。

「前じゃ、ない……っ」
「ほんと、愛美も好きだね」

 クスクスと笑った奏の冷たい手は腰をしっかりと掴み、逃げられない。逃げる気もない。
 家族は大事。裕二くんも大事。罪悪感だってある。でも。

「気持ち、いんだもん……っ」

 体が震える。後ろから侵入してくる奏のそれは手とは比べ物にならないくらい熱くて、そのギャップにクラクラとする。悪い男。心も体も。

「ねぇ、愛美」
「っ、なに、」
「父さんと母さん、俺らがこんなことしてるって知ったらどう思うかな」
「っ、」
「彼氏にも、知られたら振られるかもね」

 ほんと性格悪い。罪悪感と背徳感で私の感度が上がること、奏はよく知ってる。
 裕二くんとのセックスが気持ちよくないわけじゃない。幸せだし、好きだし。でも好きだとか余計な理屈なしで交わる奏とのセックスほどじゃない。比べてる時点で私も性格が悪い。

「あっ、イキそ、」
「愛美、彼氏に振られたら俺が毎日抱いてあげるね」

 クラクラとするほどの快感に身を震わせた。苦しい。気持ちいい。息ができない。こんな快感、知らない。
 中に奏の欲望が弾けた時には、私の体は痙攣して大変なことになっていた。奏の手が離れて体に力が入らずその場に座り込めば、膣からドロリと何かが溢れた。

「シャワー浴びてくるね」

 動けない私をそのままに、奏はさっさと部屋を出て行ってしまう。ほんと最低だ。あんな男、好きになったら終わりだ。

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