お花が綺麗です。03

「おい」

 そして横からかかった声を無視して歩き続ける。声の主は容易に想像できる。

「おいぃぃ無視すんなぁぁぁ」

 あーうるさいしめんどくさい。ジロリとソイツを見るとやっぱり、朝チワワを追いかけていたストーカーだった。

「何、何か用」
「菜月ちゃんとどういう、って止まれよぉぉ!」

 聞いてる聞いてる、歩き続けてるだけで。俺はポケットからウォークマンを取り出した。

「音楽聴くな!俺の話を聞け!」
「あー!めんどくせー!んだよ、5秒で話せ!」
「ええ、ご、5秒?あ、あのだな」
「はい5秒ー。じゃあな」
「おいぃぃ」

 一瞬立ち止まった俺がまた歩き出すと、ストーカーもついてきた。しつこいから嫌われんだよ。

「お前!菜月ちゃんとどういう関係だよ!朝も邪魔しやがって!」
「別に、たまたま通りかかっただけ」
「なんで家まで送ってんだよ!それに、菜月ちゃんお前を好きって…」
「なんでかなんてこっちが知りたいよ」

 もう一度さっきのコンビニに立ち寄ると、ストーカーもついてきた。

「何、次は俺のストーカー?」
「そんなわけないだろ!僕は女の子が大好きだ!」
「あっそ」

 またさっきのアイスを持ってレジに向かう。美味しかったからなー、これ。

「菜月ちゃんに付きまとうのはやめろ!」
「それこっちのセリフだわ」

 別にチワワの味方するわけじゃないけど。学校から家まで遠いのに走って帰ってたりとか、今まで一人で我慢してたりとか、足音が聞こえるだけで怯えてたりとか。
 少しだけ、可哀想だと思っただけ。

「好きな女に平気で辛い思いさせといて偉そうなこと言ってんじゃねーよ」

 グイッとストーカーに近づいて言えば、ヒッと小さく悲鳴を上げて固まった。

「自分のことしか考えれねー奴にぐちぐち言われたくねー。じゃあな」

 あー、めんどくさい。早く家帰ってアイス食べよ。
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