「先輩、先輩!見てください犬ですよ!」
「そうですねー」
「こんなところに可愛いお花が!」
「あー、どうでもいー」
……ほんっとめんどくさい。なんで俺は今日出会ったばかりの名前すらろくに覚えていない女の子を家まで送り届けなければいけないのか。面白がってチワワを唆した親友とその彼女を恨みたい。本気で。
「先輩、楽しくないですか?」
シュンと眉を下げたチワワを見てため息を吐く。……俺今日塾なんだけどな。
「そちらは楽しそうで何よりですね」
「はいっ!先輩と一緒なら何でも輝いて見えます!」
「……」
「あ、雲だー」
……雲はさすがに輝いて見えないんじゃないですかね。
「……家どこ」
「あっ、あと5分くらいです!」
5分ならもうすぐか。仕方ないから今日くらい我慢してやるか。そう思ってため息を吐きながらもチワワと歩いた。
「……あのさ」
「はいっ!」
「お家、どこですか」
さっきチワワがあと5分って言ってたところから歩いて歩いて、すでに15分。チワワいつもどんだけ歩くの速いんですかね、というか、何度も言うけど俺今日塾なんですけどね!
「も、もう着きます!」
あれ、おかしいなと呟くチワワ。まさか自分の家帰るのに迷ったとかじゃないよな、さすがに!
「いつも走って帰るから早いのかな」
「……」
そっちね。ストーカーが怖いからこの距離をいつも走ってるんだ。
「……誰かと一緒に帰ってもらえばいいのに。友達とか」
「女の子を危ない目に合わせるわけにいかないです。先輩は男の子だから強いでしょ?」
「俺以外にも男の子いっぱいいるでしょ」
「男の子はいやらしいから嫌いです」
「……俺もその男の子なんだけどな」
「先輩はいいんです、むしろいやらしい目で見てほしいです」
……あっそ。というかチワワの男の子への偏見ヒドいな。時計を見ると、すでに塾の講義が始まる時間を過ぎていた。
「あ、あの先輩。家もうすぐなんで塾行ってください」
チワワがまたウルウルしながら言う。……一丁前に気遣ってんなよ、チワワの分際で。
「なんか塾行く気なくしたからいーや。ちょっとそこのコンビニ寄っていい?」
「まままさかデートのお誘いですか!」
コンビニデートで喜ぶなんて安い女だな。……デートじゃないけど。