「おっす、浩紀」
「はっしー、はよ」
教室に入るとはっしーこと橋本亮が声をかけてきた。自分の席に荷物を置いているとはっしーが前の席に座った。
「ん?浩紀なんか口キラキラしてる」
「は?」
はっしーはクラスメートで彼女でもある佐藤梨香に鏡を借りると俺に向けてきた。見ると確かに、口元がキラキラしている。
「何?朝っぱらからキスでもした?」
「まさか……あ。」
心当たりがありすぎる。はぁ、と深いため息を吐くと、はっしーがムカつくくらいニヤニヤして俺に詰め寄ってきた。
「誰と?!彼女できた?!」
「そんなんじゃねーよ。説明すんのもめんどくさい」
「何だそれ、すっげー気になる!」
なんで人のことでそんなにテンション上がんのか意味わかんねぇ。苦笑いして一時間目の英語の予習を始めた。
昼休みははっしーと梨香と3人で屋上に行ってご飯を食べるのが恒例になっている。腹減ったーと叫ぶはっしーの後を追って教室を出ると、くいっと袖を引っ張られた。何?と思って振り返って固まった。
「ど、どーも」
何?なんでこの子がここに?
朝の出来事を頭の中で辿ってみると、思い出した。そういえばうちの制服着てたわ。いきなりキスしてきた、女の子。
「何?何か用?」
「あ、あの、一緒にお昼ご飯食べませんか」
「は?」
意味わかんねぇ。なんで俺がこの子と。めんどくせ。
「いや、なんで……」
「あっれー、浩紀!誰この子!」
めんどくさいのに見つかったよ……。はっしーは嬉々とした様子で女の子を見た。
「いや、あの」
「もしかして!キスの相手?!」
いやいやいや顔赤らめないでくれる!まためんどくさいことになるから!
「マジでかー!どういう知り合い?なんでキス?!」
「キス?キスって何?!」
はっしーの大きい声を聞き付けて梨香も絡んでくる。めんどくさいどころの騒ぎじゃなくなってきた……。
「可愛い!」
目を輝かせて言った梨香は女の子の頭を子犬を愛でるように撫でる。ちょっとちょっと、変になつかれたらめんどくさいからやめて……って、今更か。
「チワワちゃん、一緒にお昼行く?」
「はいっ!」
俺を置いて3人は歩き出す。いやいやいや、まずチワワちゃんって何?その子のあだ名的な?急に採用されても周りはついていけないから。それになんで返事してるわけあの子。
「浩紀ー!置いてくよー!」
「……めんどくせ」
もう考えるのもめんどくさい。どうでもいいや。俺は3人の後を追った。