チワワにはすぐ追い付いた。チワワは俺をチラチラ振り返りながらまるで本気では走っていなかったのだ。
「逃げる気ないでしょ」
「当たり前じゃないですか!痴話喧嘩で女子が逃げるのは追いかけてくれるの期待してるからですよ!」
「そんなところであざとさ見せなくていいよ。あー、走ったら疲れた。アイス食べよ」
「アイスじゃなくて私を食べてくださいよぅ」
「あざとさ消すの早いな」
チワワがちょうど逃げ込んだ先が売店だったから、アイスを買わないわけがない。相変わらずチワワのアイスを選ぶセンスは素晴らしく、奢ってやった。
「あ、先輩あそこのベンチ空いてますよ」
「よくやったチワワ」
空いているベンチを見つけた瞬間そのベンチが誰にも取られないように突進したチワワを褒めてやる。チワワは嬉しそうに目を細めた。本当に犬みたいだ。
俺が座るとチワワも隣に座る。ピッタリと俺にくっついてくるから離れたらまたくっついてきた。エンドレス。
「先輩は本当に罪な男ですねぇ。私というものがありながら」
「チワワと付き合った覚えないんだけど」
「うわっ、このアイス美味しい」
「だろ?食べたことないのによくこれ選んだな。俺も最近これに一番ハマってる」
チワワの話題はコロコロ変わる。おかしいなと思う発言があっても上手く違う話題に意識を持っていかれるのだ。チワワのペースに乗せられているなぁというのは自分でも分かっている。
そうだ、ストーカーまがいのことだって変態発言だってあからさまに向けられている好意だって、嫌ならスッパリ切ってしまえばいいのだ。迷惑だって、はっきり言えばいいのだ。
「先輩、また一緒に食べましょうね」
あまりにも嬉しそうに言うチワワに何も言えなくなる。そもそも俺はチワワの気持ちをそこまで迷惑だと思っているのか?自問自答しても答えは出ない。少なくとも嫌ではないと思っているのだろう。
ただ、中途半端な気持ちで答えを出してはいけないというのは分かっている。
「気が向いたらな」
フッと笑うと立ち上がった俺の背中に突進してきたから慌てて振り払った。