地雷
「奈子ちゃんおかえり〜。何飲む?」
「博也くんこそおかえり!えっとね、ピーチフィズ」
「尚、ピーチフィズお願い」
「先に言っとくけど、お触りは禁止だからな!」
「はいはい、わかってるって」
仕事帰り、海外に行っていた博也くんと芦屋くんのお店で待ち合わせする。場末だから他にお客さんはいない。つまり、あのホテル以外で唯一恋人同士になれる場所。場末もいいとこあるな。
「仕事どうだったの?」
「めちゃくちゃ順調に終わった。早く奈子ちゃんに会いたくて俺すっげー頑張ったよ〜」
「お疲れ様。寂しかったから早く帰ってきてくれて嬉しい」
「俺の彼女天使〜!」
博也くんが顔を手で覆った時、カランコロンとドアベルが鳴った。場末なのに……!博也くんはドアに背を向けているからバレないはず。急いで隠れないと……!
「あれ、お前いたの」
聞き慣れた声であることに気付き、ドアに視線を向ける。そこにいたのは気の抜ける人物だった。
「何だ、吉村か……」
「三木村さん、こんばんは」
「どうもー」
「えっ、三木村って……」
気を抜いたのも一瞬。吉村の後ろに立っている人に気付いて色んな意味で心臓が止まりそうになった。吉村、特級のKY……!!
「望月さん……」
博也くんが私と望月さんを交互に見て無表情になった。いや、元カレだけど当然今は何もない。今日復縁したいと言われたばかりだけど。望月さんとは周りに内緒で付き合っていたので、吉村も知らないはずだ。吉村は何も悪くない、でも。気まずい……!
「えっ、北山と吉村、三木村博也……さんと知り合い?」
「こんばんは、えっと、望月さん?よくこのバーで会うんです」
彼氏だと言ってもいいのか悪いのか悩んでいた私を置いて、博也くんが望月さんに挨拶する。当たり障りのない挨拶。綺麗な笑顔に望月さんも少し見惚れているようだった。
「あ、私今日は、帰ろうかな」
こんな気まずい場所にいられるわけない。芦屋くんが作ってくれたピーチフィズは奢りとして吉村に飲んでもらおう。
「そ?じゃあ俺も帰る。奈子ちゃん、今日も一緒にホテルに帰るよね?」
「えっ」
微妙な空気に気まずい沈黙が流れる。名前。一緒にホテルに帰る。平気で言った博也くんは今、何を考えているのだろう。
「日本に帰ったら一緒に映画観ようって約束してたじゃん。忘れちゃった?」
「えっと……」
「奈子ちゃんに会えたのは2週間ぶりだから、そうだな、5回えっちしてから映画ね」
「え、えええ、えっと、」
「するのやだ?生理は終わってるはずだけど……体調悪いなら無理強いはしないよ」
ニコニコと綺麗な顔で地雷を踏み抜きまくる博也くんは、しっかり私の生理周期も把握しているようだ。博也くんが変態だとバレてしまった、どうしよう。
「尚、また来るね」
「時差ボケあるだろうから無理すんなよ」
「奈子ちゃんとセックスしてる間に治るよ」
「オエッ」
オエッて失礼だな。
「吉村くん、また飲もうね」
「えっ、あ、うん」
いつの間に仲良くなったんだ、ちょっと怖いよ。
「奈子ちゃん行こ。お腹空いた?奈子ちゃんのお気に入りのラーメン出前取ろっか」
「う、うん……」
怖くて望月さんのほうは見れなかった。もし望月さんがマスコミにバラしたりしたらどうするつもりなんだろう……。