抗えない03

「お待たせ」
「ううん、全然」

 お店の外で待っていた私の手を握って彰くんが歩き出す。お酒を飲んだからか昨日より熱い手。すでに思考が溶かされ始める。
 みんなの前で腰を抱かれた時、彰くんは耳元で「この後2人になりたい」と囁いた。「冷たくしてごめん。近付くとすぐに抱きたくなるから」とも。それだけで彰くんについた悪いイメージが全部なくなっちゃうんだから彰くんがズルいのか、私が単純なのか。

「また未来香の家に行きたい」
「えっ、う、うん、いいよ」

 彰くんに呼び捨てで名前を呼ばれた。それがこんなに甘美な響きだとは。

「あ、あのね、彰くん」
「ん?」
「最近、みんな彰くん変わったよねって言ってるよ」
「そうかな」
「何かあった?」
「うーん……、強いて言えば、未来香と出会えた」

 まっすぐに私の瞳を見る彰くんの顔はとても美しい。普通ならかなりドキドキするシチュエーション。私も実際心臓が皮膚を突き破りそうなほど。……でも、でもね。

「私たち、前から知り合いだよね……?」

 一応、ゼミが同じになった時から知り合いなはず。自己紹介したし。私は大学に入った時から知ってたけど。彰くん有名だから。
 はっ!ま、まさか彰くんは私のことを認識していなかったのか?私が一方的に知ってただけ?一緒の教室にいたのに?何度か話した(彰くんはあからさまに嫌そうな顔をしていたけれど)のに?!

「彰くん、それはちょっと酷すぎ……」
「ねぇ、そんな話より」

 彰くんが私の腰を抱いてぐっと引き寄せる。間近に見る彰くんのお顔は本当に美しい。つっと頬を撫でる長い指は少しだけ冷たいのに、容赦なく私の体温を上げて行く。

「気持ちいいこと、しよ?」

 そんな色っぽく誘われたら断れないだろうが!!!

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