様子がおかしい01

「私この前さ、彰くんとエッチした」

 親友の紀穂の驚愕の告白に口をあんぐりと開ける。昼時の食堂、周りに数えきれないほどの人がいる。聞かれたらマズいと冷静に判断した私の脳を褒めたい。
 ちなみに紀穂が言った「彰くん」とは同じゼミの超イケメンで、稀代のモテ男だ。ただかなりの女嫌いで、大学一の美女が告白しても「無理」という一言でぶった切られたというのはあまりにも有名な話だ。
 そんな、そんなみんなの憧れ彰くんと、エッチした、だと……?!

「って、夢を見た」
「夢かよ」

 ほんとに心臓がスッと冷たくなったよ。妙な冗談で驚かさないでほしい。

「でもね、同じバイト先の子が最近彰くん変わったよねーって言ってたの」
「変わったって?」
「なんか、優しくなったって」
「へー……?」

 変わった?どこが?今朝会った時挨拶したら絶対零度の視線を向けられましたけど?話しかけんじゃねー寄んじゃねーって顔されましたけど?
 私嫌われてるのかなぁ?今までなら冷たくされても彰くんが嫌いなのは私だけじゃない、女の子みんなだって思えたのに。彰くんに優しくされたって女の子が出て来てしまうと私も優しさを求めてしまう。人間って欲深い。

「私たちには冷たいのにね」

 はぁとため息を吐く親友も私と同じ思いのようだ。

「彰くんに彼女なんかできたら立ち直れないな」
「まぁね、でもあんなイケメンに彼女がいないほうがおかしいんだからさ。気持ちに折り合いつけるしかないよね」

 彰くんに憧れのような気持ちを持っているとは言っても、付き合えるなんて思っていない。きっと彰くんが選ぶのは最近人気の若手女優・南あかりのようなとっても可愛い女の子だし、平凡な女じゃ周りが許さない。
 彰くんに彼女が出来たらもちろんショックだけれど、結局は他人事で自分の身の丈に合った人を選ぶのだ。
 はぁぁと未だ深いため息を吐きながら席を立つ。昼時の食堂は席の争奪戦なので、私たちが立った瞬間穏やかに見せかけながらもすごい勢いで席を取りに来た人がいた。もし彰くんがはっちゃけて女の子と遊び出したらあんな風に争奪戦になるんだろうなと思う。

「この後ゼミってのがまた憂鬱だね」
「憂鬱っつーか一言も喋ってもらえないから」

 そんなことを話しながら歩いていると、食堂の近くのコンビニから噂の彰くんが出て来た。相変わらずイケメンだなぁ。挨拶だけでもしたいけどどうせ無視されるしな。

「彰くんお疲れ様」

 勇気ある紀穂は果敢にもトライした。彰くんは切れ長の瞳でこちらを見て……

「ああ、お疲れ」

 答えた!しかも笑顔で!
 思わず紀穂と顔を見合わせる。紀穂の顔には驚愕と同時に隠し切れない喜びが漂っていた。

「よかったら一緒に行かない?」

 確実に調子に乗った紀穂がそう尋ねる。声のトーンがいつもより明るい。喜びが滲み出ている。
 彰くんは笑顔で頷いた。あれ、これ本当にあの彰くん?

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