はじめて

 ちゅ、ちゅ、と。自分じゃない人間の唇が自分の体を滑っていくのは不思議な感覚だった。体が熱くて何も感じないほどなのに、関くんの唇の熱だけは感じる。鼓動が胸を見たら分かるほどに昂ぶっていて恥ずかしい。関くんはそっと、バスローブの紐を外していった。
 ……お風呂から上がった時、とても悩んだのだ。バスローブにしようか、それとも服を着ようか。バスローブだとやる気満々だと思われるだろうか、服だとガードが堅すぎると思われるだろうか。何もかも分からないことだらけだから、いちいち頭を悩ませてしまう。
 でも関くんはひたすら優しかった。大きな腕で、どんな私でも受け入れてくれるような、そんな不思議な安心感があった。

「七瀬ちゃん」

 彼の落ち着いた低い声が私の名前を呼ぶ。私は今までこんなに心地のいい呼び方を知らなかった。
 そっとバスローブを広げられると、関くんは少し体を起こして私の体を上から下までじっくりと見た。

「綺麗だよ」

 自分の体に自信があるわけじゃない。肌は白いほう。でも胸はそんなに大きくないし、最近ちょっと太ったからお腹のお肉も気になる。
 でも、関くんは綺麗だと言ってくれた。苦しいくらい、胸がきゅうんと疼く。 関くんのしっとりとした唇が首筋に当たる。そして少しずつ下がっていって、膨らんでいるところまで来た。
 そこは恥ずかしいほどにドクンドクンと脈打っていて、関くんは少しだけ笑った。そして、私の手を取って関くんの胸に当てる。私と同じくらい、ドクンドクンと脈打つ心臓。肌の温かさとそれが直に伝わってきて、安心する。

「俺も、一緒だから」

 関くんは私の手を握ったまま体を倒してキスをくれた。初めて知った。キスがこんなに愛しい気持ちを大きくさせるものだって。
 関くんは初めての私に気を使ってか、ゆっくりゆっくり進めてくれた。声を出すのも恥ずかしくて、小さく声が漏れた時急いで手で口を塞いだ。でも関くんは色っぽい顔で微笑んで、その手を握ってベッドに縫い付けた。

「声、聞きたい」

 セックスって、こんなに甘いものなんだろうか。初めて会った人。初めて体を重ねる人。怖い。こんなに甘い体温を知ってしまったら、この人に溺れてしまう気がして。すごく、怖い。

「七瀬ちゃん、こっち見て」

 関くんの言葉に伏せていた目を上げれば、関くんは濡れた瞳で私を見つめていた。

「指、挿れるよ」

 関くんはペロッと舌を出して、指を舐めた。体に力が入る。関くんが触ったそこは充分に濡れていたらしい。指が触れたことでそれが分かって恥ずかしくなる。関くんはその上の突起を指で突いた。初めての感覚に私は驚いて体を跳ねさせた。

「ひゃっ、ん……」

 枕を握って耐える。どうしよう、気持ちいい。そして、ツプ、と指が中に侵入してきた。違和感と、少しの圧迫感。痛みはない。

「七瀬ちゃん、唇切れるよ」

 関くんは苦笑いして、私の頬を撫でた。無意識の内に、唇を噛み締めていたみたいだ。

「んっ……」

 まるで慈しむように、関くんはペロリと唇を舐めた。くすぐったくて少し笑ってしまう。関くんも笑って私の額にコツンと額を当てた。

「怖い?」

 私はゆるゆると首を横に振る。本当は少し怖い。でも関くんなら、きっと大丈夫。関くんは私に優しく触れてくれる。こんなに優しい手を、体温を、私は他に知らない。

「辛かったらやめるから」

 関くんの指で十分解されたそこに、関くんの熱が押し当てられた。気を逸らすように戯れにキスを落としながら、関くんはぐっと腰を進めた。

「っ、」

 引き裂かれるような痛みが襲う。唇を噛んで関くんにしがみついた。

「やめる?」

 目の前で熱い息を吐いた関くんが、頬にキスを落として囁いた。息が詰まって苦しい。でも私は首を横に振った。

「いや、やめない」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫だから、シて?」

 精一杯笑顔を作って言えば、関くんは切なげに眉を寄せて体を起こした。私の手をしっかり握って腰をゆるゆると動かし始める。擦れる度に痛みが走る。でも、少し余裕のなさそうな関くんを見ていると嬉しくて。

「はぁ、やばい、七瀬ちゃんの中気持ちいい……」

 胸がいっぱいになる。私、やっぱり関くんが初めての人でよかった。手を握り合って、関くんの体温を感じながら私は目を閉じた。
 次に目を覚ました時、関くんは私を抱き締めて眠っていた。穏やかで可愛い寝顔に笑ってしまう。そっと体を起こすと下腹部に鈍い痛みが走った。本当に処女捨てちゃったんだ……。
 そこで今まで考えていなかったことが急に頭に浮かんだ。私達、これからどうなるんだろう……?関くんはすごくモテそうだし、一夜を共にしただけのこんな地味女のことなんて本気で相手にしてくれるだろうか……。私は取り返しのつかないところまで来ている。きっと私は関くんの温もりを忘れられないだろう。もし、もし関くんに振られたりしたら……。怖くなった私はその場から逃げ出した。
 そして、二年後。また関くんと再会することになるんだけど……。それはまた、別のお話。
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