02
 彼女と出会ったのは3年と1ヶ月前だ。家の最寄駅のビル内にあるカフェで。

「はじめまして」

 そう言って微笑む彼女は本当に可愛らしくて、彼女を紹介してくれた友人を崇めたくなるほど感謝した。
 でも、その彼女に今俺は胃が痛くなるほど悩まされている。

「おーっす」
「……」
「何だよ怖い顔して」

 会社に着くと、能天気に挨拶してきたのは彼女を紹介してくれた友人・柳瀬。じっとりと睨む。こいつが悪いわけじゃないわかってる。ただの八つ当たりだってわかってるんだよクソが!!

「なになに、ご機嫌斜め?もしかしてトウコちゃんとヤリすぎて寝不足?!」
「うるせぇ黙れこのヤロー」

 マジで空気読め。ヤるどころか別れの危機だよ。

「トウコちゃん可愛いもんなー。あのカフェでも目立ってたよ。思わずナンパしちゃったもんね」
「ナンパってお前相変わらずだな。つーか人の彼女に……え、ナンパ?」

 トウコは俺に、柳瀬とは大学の時からの知り合いだって言ってた。あれ、何?俺嘘つかれてる?

「ナンパって何?大学からの知り合いじゃねーの」
「ええ、何それ。ナンパだよナンパ。あのカフェで可愛いなーと思って声かけて仲良くなってね。なんで嘘つくんだろうね。ナンパに応えちゃうような女の子だとお前に思われたくないとか?」

 正直、俺の中は不信感でいっぱいだ。ナンパがどうとかそういう問題ではなく。3年付き合っていたのに俺は嘘をつかれ続けてきたのだ。どこまでが本当で、どこまでが嘘?どれが本当で、どれが嘘?トウコの全部が嘘じゃないかって、思ってしまう。プロポーズを断られたことで割れた俺の心の隙間に、不信感がじんわりと沁みていく。

「まぁま、トウコちゃんお前のこと大好きだからあんま気にすんなよ」

 それだって本当か分かんねーじゃんかよ。

 その日の夜、元気がないからと無理やり柳瀬に夜の街に連れ出された。と言っても俺は女の子のいる店とかちょっと苦手だから(綺麗な子が横にいると緊張しすぎて吐きそうになる)、柳瀬がよく行くバーだ。まぁそれならとついてきたが騙された。柳瀬の知り合いだという女の子が数人いたのだ。

「まぁま、トウコちゃん以外にも女の子はたくさんいるんだからさ」

 昼間と言ってること全然違うんですけど。話しかけてくる女の子と適当に会話してその場をやり過ごす。飲んでいると緊張もちょっとだけ抜けてきた。ただ帰りたい。

「あの、彼女さんに騙されてたって本当ですか?」

 1人の女の子がそう尋ねてきた。騙されてたって言い方あまりよくないよね。なんか嫌だよね。それにトウコはそんな奴じゃないし……。昼間と思ってることが違うのは俺も一緒か。不信感だらけなのに、人に言われるとトウコを庇ってしまう。

「騙されてたとか、そういうわけじゃ……」
「彼女さんもしかして、男なら誰でもいいんじゃないですか?柳瀬さんに男紹介してって迫ってたらしいですよ」
「……え」
「裏の顔は分かんないですよ。浮気とかもいっぱいしてるかもしれないし」

 プロポーズを断られた時、実は真っ先に頭に浮かんだのが"浮気"だった。他に好きな男がいるのか。そう思った。
 会ったこともない俺の彼女を悪く言わないでほしい。彼女はそんなコじゃない。そうはっきり言い返せない自分が情けない。

「傷付く前に別れたほうがいいんじゃないですか?」

 もう傷だらけだから手遅れ感半端ないです。


「家行っていいですか?」

 飲み会も終わり帰ろうとすると、さっき話してた女の子がそう言った。綺麗な子は緊張する。でも、少し話したから大分マシ。

「うーん、ダメでしょ。俺彼女いるし」
「彼女に裏切られてるのにまだ気にするんですか?」

 彼女がくすっと笑う。情けない男だと思われているのだろうか。でも俺ってほんと情けない。プロポーズ断られてうじうじぐずぐず悩んで。それでも結局トウコを裏切るのは嫌だって思う。騙されていたとしても、トウコのこと好きだって。

「ごめん、無理だよ。俺彼女のこと裏切れない」
「裏切りだと思わなきゃいいんです。彼女にされたこと、やり返すだけ」

 ていうか、浮気されたと決まったわけじゃないんですけどね!彼女が俺の腕に胸を押し付けてくる。随分と立派なものをお持ちで。

「ね、いいでしょ?」
「いや、だからさぁ」
「あれ、ノリくん?」

 最悪だ。居酒屋の前。女の子と腕を組む俺を偶然通りかかった彼女が目撃。これって修羅場じゃね?
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