前とは違う?3

 目が覚めると、ベッドの上で眠っていた。隣では美晴ちゃんが気持ちよさそうに寝息を立てている。いっぱい泣いて、その後の記憶がない。多分泣き疲れて眠ってしまったんだと思う。日向がベッドまで運んでくれたのだろうか。そこまで考えてようやく頭がズキズキと痛むことに気付いて、ベッドから降りた。足音を忍ばせて寝室を出る。寝室のドアのすぐ前で響が床に転がっていた。昨夜と全く変わらない体勢で。胸が少し上下しているので息はしている。私は響を跨いでキッチンに入った。日向はソファーの上で眠っている。主任は……

「うわっ」
「っ、」

 冷蔵庫から水を取り出して口にしたタイミングでリビングのドアが開いた。向こうも私がいることに驚いたようで声を上げる。驚きすぎて水を零した私に、主任は焦ってタオルを差し出した。

「ごめ、もう起きてると思わなくて、あ、これ勝手に洗面所借りて、お、女の子の家でほんとにごめ、」
「あ、あの、大丈夫なんで。タオルもらいます」
「え、あ、はい、どうぞ」

 何でそんなに緊張するんだろう。どこかソワソワしている主任に首を傾げながら、床に零れた水を拭いた。八年前。私がまだ中学生だった頃。主任は普通にパンツ一丁で家の中を歩いていたし、基本的に私を女の子として扱わなかった。なのに、今はどうしてこんななんだろう。距離があるから?その距離を開けたのは私なんだけど。

「あの、さ」
「はい」
「……ちょっと、聞いてもいい?」
「はい」
「あの……、俺を避けるようになったのって……」

 気まずそうに言葉を濁らせる主任が気になって顔を上げる。……前とは、違う。ううん、違うところもあるけど変わったところもある。変わったところもある、でも肝心なところは全然変わっていない。

「……ごめん、俺、唯香のことそんな風に見たことない」

 泥酔していたとは言え、主任が話を聞いていない証拠なんてどこにもなかったのに。迂闊だった。主任がいる場所であんな話をして。引かれた。絶対。子どもの頃から好きだったなんて、どれだけしつこいんだ。自分でも思う。今まで平気だって自分を偽って被ってきた仮面が、簡単に剥がれる。

「知らなかった。全然。気付かなかった」
「……」
「傷付けて、ごめん。でも、俺にとって唯香は妹みたいなもので、これから先も多分……」
「……いいんです。気の迷いみたいなものです」

 主任が目の前で困った顔をしている。それが耐えられなかった。でも、もっと嫌だったのは、本当は大好きなのに、気の迷いなんかじゃ絶対ないのに、素直に気持ちを言えない自分だ。ほら、肝心なところは全然変わっていない。主任の私に対する気持ちと、可愛くない私。一番変わってほしかったところが、あの日と同じ。

「気にしないでください」

 剥がれた仮面をまた被って、私は微笑む。困った顔の主任を見ていたくなくて目を逸らした。苦しくなんてない。やっと自分の気持ちを認めてすぐに失恋だなんて笑えるけれど。このしつこい片想いも、いい加減やめないと。

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