世界一の幸せ者2

「おう」

 1ヶ月ぶりに会うヤスくんは、全く変わっていなかった。ゴールデンウィークを利用して地元に帰ってきた。もちろん一番の目的はヤスくんに会うことだ。
 実家にはもちろん顔を出す。でも今日は立花家に泊まる予定だ。美晴ちゃんが晩ご飯を作って待ってくれているらしい。
 手を繋いでヤスくんの車に向かう。急いで来てくれたのか、ヤスくんは少し息が切れていた。

「そんなに走らなくても」
「一人で待たせたらナンパされんだろ」
「ナンパされてもお父さんが助けに来てくれるでしょ」
「だからお父さんじゃねーから!」

 助手席に乗り込む。何となく何か落ちていないかと気になってしまうのは仕方のないことだ。ヤスくんにバレないように探っていたら、不意に顔に影がかかった。顔を上げたらちゅ、と唇が重なる。会いたかった、そう言うヤスくんの顔は甘い。

「っ、誰かに見られるかも……っ」
「別にいい」

 本当は、嬉しいんだけど。やっぱり緊張はするから。緊張とときめきで心臓が忙しい。
 触れるだけのキスを何度も繰り返して、ヤスくんはようやく車を発進させた。
 立花家に着くとおじさんとおばさんと美晴ちゃんが迎えてくれた。おじさんとおばさんは最近ヤスくんと私が付き合い出したことを知ったらしく、「唯香ちゃんがお嫁さんになってくれると嬉しい」だとか、「お兄ちゃんには唯香ちゃんしかいないと思ってたのよね」だとか、そんなことを言ってくれて恥ずかしいと同時に嬉しかった。

「今日はお兄ちゃんの部屋に近付いちゃダメだよ、ママ」
「そうね、1ヶ月ぶりの逢瀬だものね、パパ」

 なんて会話をされた時には恥ずかしくて顔から火が出るかと思った。
 立花家には昔から何度もお邪魔しているから、お風呂もトイレもキッチンも勝手は知っている。私が家にいることももはや立花家の人たちにとって違和感もないらしい。私も立花家は実家と同じくらい寛げる場所だ。
 一応布団を借りてリビングの横の和室に敷いた。ヤスくんの部屋でヤスくんと一緒に寝るのは実家じゃ気まずい。でも結局、酔っ払ったヤスくんは寝てしまって二階の自分の部屋に上がることも出来なかった。

「唯香ぁ」

 酔っ払ったヤスくんが寝ぼけながら私の膝に抱きついてくる。美晴ちゃんやご両親は自分の部屋に行ったものの、実家でイチャイチャするのは気まずくて。でもスイッチの入ったヤスくんには関係なかったようだ。

「会いたかった」

 睡眠欲と性欲で闘っているらしいヤスくんは、私を布団に押し倒した。きゃ、待っ、ヤスく、なんて抵抗の声もヤスくんの口に呑み込まれていく。深いキスに頭がぽーっとなって、身体中に落ちてくるキスに私の身体は熱くなっていった。

「あっ、ヤスくん、」
「全部見たい。唯香の身体、俺が知らないところがないくらい」

 明るい部屋で身体を暴かれていくのは羞恥心を伴って。それに、リビングと和室は襖で仕切られているとは言えすぐそこなのだ。誰がいつ降りてくるか分からない。声を必死で抑える私を見下ろして、ヤスくんがふっと笑った。

「可愛い、唯香」

 身体を重ねる時のヤスくんの顔は、知らなかったものだ。こんな風に色っぽく笑われたら、何も考えられなくなって。必死でヤスくんにしがみつく。はぁ、と荒い息が漏れた。
 キスも、肌も、指も、舌も、全部。貪ると言うより、さっきヤスくんが言っていたように知りたいという欲望で動いているように思う。熱い吐息を漏らす度、ヤスくんは私の顔を見た。ここが気持ちいい?と目で聞いてくる。
 ヤスくんはこんな風に触れるのか。こんな顔をするのか。知る度に私はもっと、ヤスくんを好きになっていくのだ。

***

 ゴールデンウィークはすぐに終わり、私が帰る日がやってきた。駅に送ってくれたヤスくんが車を停めに行っている間に、美晴ちゃんが色々教えてくれた。

「仕事終わったらまっすぐ帰ってきてるみたいだよ。帰ってくるの私より早いもん」
「そうなんだ」
「浮気しないように見張っとくから安心して!」
「うん、ありがとう」

 ヤスくんが来たのが見えて、美晴ちゃんは先に車に戻ってると言って去って行った。ヤスくんが美晴ちゃんの座っていた場所に座る。美晴ちゃんよりも少しだけ近く、少し動けば触れられる距離。近くにいるのに、遠い人だった。幼馴染じゃなければ、もっと早く女の子として意識してもらえたかもしれない。そう思っていたけれど。

「私、ヤスくんと幼馴染でよかったなぁ」
「ん?」
「ヤスくんと出会えて本当によかったと思ってるの」

 幼馴染だったから、出会えた。幼馴染だったから、こんなに好きになった。私はこの人のことが、人生をかけて好きなんだ。

「ヤスく、んっ」

 抱き寄せられて、唇が重なる。こうやって触れられる奇跡に、私は今でも胸を高鳴らせて。

「……一年後、戻ったら」
「うん?」
「俺の奥さんになって」

 夢みたいだけど夢じゃない。涙が溢れたのは、ちゃんと実感があるからだ。

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