喧嘩の後で

「ただいまー!」
「お、おかえり」

 一週間の出張を終えて家に帰ると、ヨリが迎えてくれた。それは嬉しいんだけど、ヨリは俺より俺の背後が気になるようで、変にオドオドしながら素早くドアを閉めた。

「どうしたの?」

 不思議に思ってそう聞くと、何もないと誤魔化しながらリビングへ行ってしまう。そして誰かに電話をかけ始めた。

「……うん、うん、平気……今日は大丈夫みたい……でも気を付ける……うん……うん」

 思い詰めたような表情が気になって荷物も持ったまま見ていると、ヨリが俺に携帯を渡してきた。戸惑いながら携帯を耳に当てる。

『もしもし日向、おかえり』
「……翔?」

 相手は親友だった。突然電話を渡され何が何だか分からないまま話を聞いているうちに、俺は真顔になっていった。

『ヨリちゃん仕事帰りに変な男に尾けられてるみたい。俺が送って行ったりしてたんだけど、確かに後ろから足音したよ』

 チラリとヨリを見ると、ヨリは不安そうにカーテンの隙間から外を見ていた。

『日向が帰ってくるまで言うなって言われてたんだけど、そばにいてあげてね』

 電話を切って、携帯をテーブルに置く。そばまで行ってヨリの肩に手を置くと、その手を取り関節技を決められた。

「い、痛い痛い痛い痛い!何で俺にするの?!」
「あっ、ご、ごめん!条件反射で!」

 オロオロと申し訳なさそうにするヨリは確かにすごく怯えているようだ。でもさ、ヨリが怖い思いしてたのに俺が知らなかったの、ちょっと悔しいな。

「電話で言ってくれたらよかったのに」
「言えないよ。立花帰ってくるとか言いそうだったし」
「そりゃあね。帰ってきちゃダメなの?」
「お仕事だからダメだよ。牧瀬が送ってくれたから平気」

 ヨリはきっと俺に心配をかけさせまいと翔に頼ったんだろう。いや、分かるけどさ。腑に落ちない。ガキなのは分かってる。でもやっぱり頼って欲しかった。

「……もういいや。ちょっとコンビニ行ってくる」

 こんなことでヨリに当たるべきじゃない。ヨリは被害者なんだから気持ちに寄り添うべきだ。でも何となくモヤモヤして、頭を冷やすために外に出た。その瞬間、内側から鍵をかけられチェーンまでされた。
 ええええ、俺締め出された感じ?!もうお前いらねぇよって?!落ち込みながらマンションを出たところで、意外な人物に会った。

「……何してんの?」
「あ、日向帰ってきたのか。じゃあ俺もういらねぇな」
「え?」

 そこにいたのは親友の悠介だった。

***

「ストーカーの正体コイツだった」

 インターホンを鳴らすとヨリは簡単に開けてくれた。締め出されたわけじゃなかったらしい。よかった。
 悠介と共に部屋に入り、ヨリは悠介も一緒なことに驚いていたけれど、俺の言葉に更に目を丸くした。

「ストーカー?!ふざけんな!俺は日向が出張の間早坂を送ってやろうと思って……」
「何で声掛けないの?!」
「お前びっっくりするくらい歩くの速ぇから!ほんとびっっくりするくらい!!」

 結局ストーカー事件はあっさりと終結し、ヨリも安心したのかようやく笑顔を見せてくれた。
 その夜、久しぶりにヨリに会ったのだ、考えることはもちろん一つ。ベッドの中、俺に背中を向けているヨリに手を伸ばそうとした瞬間。ヨリが寝返りを打ってこっちを向いた。何となく後ろめたい気持ちになって伸ばしかけた手を頭に乗せる。ヨリはそれに気付かず俺の胸に顔を埋めてきた。

「……立花」

 ヨリが素直に甘えてくるのは珍しい。後ろめたい気持ちも飛んで、そっと頭を撫でてあげる。

「会いたかった」

 結局ストーカーじゃなかったけど、この世で一番危ない男は俺なんじゃないかと思うね。ヨリ限定だけど。
 ヨリを抱き締めながら覆い被さり、深く唇を重ねた。一週間ヨリを抱けなかった上にそんな可愛いこと言われたら暴走しちゃうでしょ俺の武器。
 いつもは恥ずかしそうに顔を背けたりするくせに、今日は素直に俺のキスに応える。その上首に腕を回して抱き付いてくるのだから堪らない。素直じゃないヨリも可愛いけど素直なヨリも可愛すぎてトロトロにしたいね。

「ヨリ、俺のこと好き?」
「うん、大好き」
「……。俺に抱かれたい?」

 恥ずかしそうにこくりと頷かれて、もう暴走を止めることは出来なかった。自分でも甘ったるいと思うほど、ヨリの全身に愛撫を施していく。ヨリの弱いところをあえて焦らしてから、ヨリが欲しいと言った時に思う存分与える。ヨリはいつもより感じてしまって、息も絶え絶えに俺を見上げた。
 ヨリと恋人同士になって、こうやって触れられるようになって。あまり考えたくないけど、信じられないほどヨリの言動に一喜一憂させられている。ヨリは自分が全部俺の思い通りになってるなんて悔しそうにしているけど、全然そんなことはない。どこか気まぐれに素直になったり俺を突き放してみたりするヨリに、いつも俺が振り回されているのだ。

「……ヨリ」
「んっ、な、に」
「俺も会いたかったよ」

 出張中もさー、俺が寝てからヨリは家に帰ってくるし。昼間に電話しても今から仕事だなんてすぐに切られるし。俺ばっかり夢中で嫌になっちゃうよね。これは高校の頃からそうだったけど。ヨリって俺のこと本当に好きなのかななんて昔は疑っちゃったけど。今は思わないかな。
 俯せになったヨリの腰を少しだけ浮かせて、トロトロになったそこに腰を埋めていく。シーツをぎゅっと握っているヨリの手を、包み込むように握る。
 ヨリの中は俺を離すまいとぎゅっと締め付けてきて、腰が震える。後ろから胸を揉むと中が気持ちよさそうに蠢いて、ヨリは背を仰け反らせた。
 こうやって抱いていると、ヨリが自分の腕の中にいると実感できる。俺で感じてくれていると安心できる。俺のこと、本当に好きなのかななんてもう思わない。ヨリの目で、反応で、そしてヨリ自身で。ヨリは俺のことが好きだと分からせてくれる。ヨリは気付いてないだろうけど。蕩けるような視線は、きっと俺がヨリを見ている時のものと同じだから。

「なんで笑ってるの」
「今日は何回抱こうかと思って」
「怖いこと言わないで!」
「いいでしょ?お互い気持ちいいんだし」
「明日腰痛くて歩けない」
「俺がずっと撫で回してあげる」
「不安しかない言い方」

 そんなこと言って嬉しいくせに。ふふんと笑いながら抱き締めるとヨリに怪訝そうな顔で見られた。もうヨリのツンデレも可愛くて仕方ないからね。

「俺の可愛い猫ちゃん」
「キッモ!!!」
「……」

 自分でも思ったから言わないでほしい。セックスしながらこんな会話をするカップルって他にいるだろうか。キモいと言われる男はそういないと思う。

「好きなくせに」

 笑うとヨリも笑った。俺たちらしくていいよね。笑い合いながら愛し合う。何だかんだ言いながら俺を受け入れてくれるヨリを愛しく思いながら、俺は少し開いた唇にキスをした。

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