02

 別に気まずいわけじゃない。立花が浮気しているとは思わないし、立花はものすごく普通だ。こんなに悩んでいる私が馬鹿みたいに。でも相変わらず『花ちゃん』から電話はかかってきて、その度に私がいない部屋に行く。私がモヤモヤしていることなど知らない立花は、私の隣に戻ってきたら平然と手を出そうとしてくるのだ。

「最近何で嫌がるの」
「生理なの」
「一ヶ月も続く生理がありますか!」
「ちょ、うるさい」

 ソファーの上でジリジリとにじり寄ってくる立花から逃げていると、今度は私の携帯が鳴った。

「……あ」
「……え?」

 私は立花を押し退けてリビングから出た。

「もしもし、ごめん!」
『いえ、今大丈夫ですか』
「うん、大丈夫」

 電話の相手は三崎くんだった。この前お世話になったから、ハンカチのお礼を渡したいと連絡したのだ。もちろん重いものじゃなく、三崎くんから聞いた彼女さんの好きなケーキ屋さんのケーキを渡そうと思っている。あれくらいいいですよと三崎くんは言ったけれど、あの日は本当にお世話になったから。

「うん、じゃあ明日の7時に駅前で」
『はい』

 電話を切ってリビングに戻ろうとすると、リビングへ行くドアが少しだけ開いていて、その隙間から立花がじっとりとした目で見ていた。

「……何」
「三崎と会う約束したの」
「うん、ちょっとね」

 ドアを開けてリビングに入る。立花は私の後ろを魚の糞みたいについてきた。さっき私の携帯のディスプレイを覗き込んだ立花は、何故三崎くんと私が連絡を取っているのか気になっているらしい。でも何故かは言えない。あの日立花の会社に忍び込んだことを知られるわけに行かないからだ。

「何の用事?」
「立花には関係ないこと」
「関係なくないでしょ。部下と彼女が俺に隠れてコソコソしてんの気分悪いよ」
「自分だって……」
「え?」
「自分だって人のこと言えないでしょこの変態クソ野郎!!!」

 クッションを掴んで思いっきり立花に振り下ろした。まさか私がそんなに怒るとは思っていなかったらしい立花は驚きながらもヒラリとかわし、私の手を掴もうとした。でも、その動きは止まった。私が泣いていたからだ。何泣いてんだろ。いやだ。いやなのに。

「ヨリ……」
「触らないで!」

 浮気するとは思っていない。立花のことを信頼している。それは所詮、私が自分を守るための逃げなのだ。立花にあの子のことを聞く勇気もない私は、そうやって自分に言い聞かせて、立花の口から嫌なことを聞かないように逃げている。本当は、特別なのはヨリだけだよって、あの子とは何でもないんだよって、言ってほしい。でも、怖いから。他の子に優しくしないで。そんなことを自分が思う日が来るなんて思わなかった。

「ちょっと、離れよう」
「は?!」
「ごめん、冷静になりたい」

 涙を乱暴に拭ってリビングを出た。立花は追いかけて来る。ヨリ、待って、ヨリって。引き止めて、抱き締めて、好きだよって言ってほしい。でも、今はダメなの。私は立花のことが好きすぎる。

「ヨ、」
「追いかけてきたらその×××もぎ取るから!」
「……え」

 立花が怯んだ隙に立花の家を出た。どこに行こう。行くところなんかないのに。のめり込んでのめり込んで、苦しいなら。何もない、楽なところに行きたい。

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