君に恋した日

「日向ー、呼んでるよ」

 昼休み、友達に言われて教室の入り口を見ると、女の子が立っていた。こういうことはよくある。人に好意を寄せられるのは普通に嬉しいし、今彼女もいないからよく知らない子だけど話だけでも聞くかな。そう思って彼女の前に立った。この子は確か隣のクラスの早坂さんだ。寧々が懐いているから顔と名前だけは知ってる。いつの間に好意を寄せられていたのか……

「立花くん」
「何?」
「○○って本、図書室で借りてるよね」
「……え」
「私ずっと待ってるの!早く返して!」

 好意どころかめっちゃ怒ってた。早坂さんは唾でも吐きそうな勢いでそう言って足早に隣のクラスに帰って行った。告白じゃなかったのか……。

「寧々ー、早坂さんってどんな子?」

 その日の夕方、文也と寧々が二人で俺の家に遊びに来たから聞いてみた。別に「俺に冷たい態度取った女の子初めてだから」なんて寒いモテ男風な台詞言うわけじゃないけど、何となく気になって。話したことないほぼ初対面の子に怒られたことはさすがにないし。

「めっちゃいい子だよ。え、何?!日向、ヨリちゃんのこと気になるの?!」
「ふーん、ヨリちゃんって言うんだ……」

 名前を知った。ふーん。ふーん。

 次の日。俺はヨリちゃんが言っていた本を持って隣のクラスに行った。

「はい、これ。ごめんね、やっと読み終わった」

 正直言えば忘れてただけなんだけど。ヨリちゃんは机で一人本を読んでいた。本が好きなのかな。

「まず図書室に返してくれないと借りられない」

 俺と本を一瞥して、ヨリちゃんはそう言った。すぐに本に視線を戻す。どうやら相当熱中しているようだ。

「じゃあ今から行くし一緒に行かない?」
「なんで一緒?」
「だって俺が返してヨリちゃんが借りるまでに他の人に借りられちゃうかもよ」
「何で名前?……でも確かにそうかも。行く」

 ヨリちゃんは想像以上にチョロかった。ヨリちゃんと一緒に図書室へ向かう。特に会話はなかったけれど、ヨリちゃんはちゃんと俺の後ろからついてきた。
 途中、すれ違った悠介や翔に手を振っているのを見た。俺が知らなかっただけで俺に近い奴らと親交があるらしい。
 ヨリちゃんは翔や悠介に寄ってくるような女の子とは違った。スカートも別に短くない。ピアスだって開けてないし化粧っ気もない。ごく普通の子だ。特別美人で目立つというわけでもないようだった。

「はい。あ、早坂さんよかったね。ようやく借りれるじゃない」
「うん!」

 図書室の先生と仲良いのを見ている限り、よくここに来ているようだ。ふーん。図書室ね。
 俺の返却手続きとヨリちゃんの貸出手続きが終わったらまた一緒に図書室を出た。ヨリちゃんは本を抱き締めて嬉しそうに歩いている。

「そんなに嬉しい?」
「まぁね!すっごい待ったから!」
「返すの遅くてごめんね」
「ほんとだよもうー。ま、でも借りられたしいいや」

 ヨリちゃんは確かに、寧々が言っていたようにいい子なようだ。少し話しただけで分かる。
 と、その時ヨリちゃんの肩に虫が乗っているのに気付いた。俺は何気なしに立ち止まってヨリちゃんに近付く。そして、肩の虫を払った。思った以上に近い距離に顔があってハッとする。

「あ、ごめん。肩に虫が……」

 そこまで言って、ヨリちゃんの顔が真っ赤に染まっていることに気付いた。え、と俺も固まってしまう。

「っ、あ、あの、ありがと。本も、虫も。じゃあね!」

 そう言ってヨリちゃんは足早に去って行ってしまう。
 ……きっかけなんて、本当に些細なこと。冷たいと思っていた子の恥ずかしがるウブな姿を見てしまっただとか。……ダメだ。あれは反則。落ちた。
 それから悠介や翔や寧々に協力してもらって何とか関わりを持ち、図書室にも通って偶然を装って話しかけたり、徐々に距離を縮めていっただなんてヨリは知らないだろう。でも俺は意外と必死だった。

「彼氏いないなら俺と付き合ってみない?」

 告白だってそんな軽い言い方をしたけれど、本当は心臓はバクバクだし背中に嫌な汗もかいた。ヨリが恥ずかしそうに頷いた時、俺は心の中でガッツポーズをしてその後すぐ翔に電話した。付き合うことになった!と子どもみたいに喜んだ。
 そういうの全部、隠さずちゃんと見せていたら一回目も二回目も別れずに済んだのかもしれないけど。

「何一人で百面相してんの」

 ハッと我に返ると目の前で大人になったヨリが怪訝そうに見ていた。クールな表情は変わらない。でも本当は恥ずかしがり屋なところも甘えるのが好きなところも猫みたいに気まぐれなところも、今はよく知っている。

「別にー。ヨリのこと好きだなと思って」
「急に何なの変態」

 あ、照れてる。
 後悔はあるしもっと早くに素直になっていればといつも思う。でもま、今ヨリは俺の隣にいてくれるんだからいいか。

(16/08/05〜16/08/18拍手掲載)

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