色惚け舞子

「坂井」
「んー?」
「キスって気持ちいいんだね……」

 次の日、就業中。そう言うと、坂井は一瞬止まった後机を叩きながらぎゃはははと笑った。笑い過ぎだ。

「まさか舞子が色惚けするとはねぇ。三上ってそんなキス上手なの」
「わかんない。だって私初めてだったし。でもなんかこう、触ってるだけで気持ちいいんだよね」
「ふーん」
「三上の匂いに包まれてさ、体温も心地良くてさ、ああずっとこうしてたいなぁ……って」
「骨抜きにされてんじゃん。今度三上にキスしてって頼んでみよっかな」
「なっ……!ぜぜぜ絶対ダメ!坂井に食われたら骨すら残らないじゃん!絶対絶対ダメ!」

 バンっとデスクを叩いて思わず立ち上がる。松永課長から「花田ー、仕事ー」とゆるく注意された。さ、坂井が変なこと言うから!

「冗談だって。友達の彼氏に手出すほど落ちぶれてないって」
「……」
「疑いの目が凄い。それにさぁ、安心しな。三上はずーっと前からあんたのことしか見てないから。ほらもう昼休みだよ。たまにはあんたが迎えに行ってあげたら」

 腕時計を見れば、坂井が言った通り昼休憩の時間になろうとしていた。三上とは三上に言われた場所で待ち合わせすることが多いけど、たまには迎えに行ってみようかな。
 突然胸が踊り出す。三上ビックリするかなぁどんな顔するかなぁ。ソワソワし出した私を見て坂井はまたギャハハと笑った。

「みっかみーみっかみー」

 スキップしそうな勢いで廊下を小走りする。すれ違う人がこぞって振り返った気がするけど気にならない。営業部までは後少し。スピードアーップ!!しようとした時だった。人気のない非常階段の方から声が聞こえてきた。

「好きです」

 ははーん告白だな。

「ごめん、俺彼女できたから」

 み、三上ぃ?!
 そーっと柱の陰から覗いてみる。そこにはやはり、顔を真っ赤にした女の子と三上がいた。三上は後ろ姿で表情は見えない。で、でもあんな可愛い女の子に告白されたらポンコツな私がじゃがいもに見えるんじゃ?!

「え、い、いつですか?私ずっと好きだったのに」
「君には関係ないことだから、ごめん」
「そんな……!私、はじめは2番目でもいいです。だから……」
「み、三上!」

 思わず名前を呼んでいた。思わず柱の陰から飛び出していた。だって嫌なんだもん。三上が、その優しい手で、私以外の人に触れるなんて。

「花、てオイ!」

 三上が振り向くのと女の子に般若のような顔で睨まれるのが怖すぎて逃げ出した。何やってんだ私。自信持てよ舞子!三上はあんたを選んだのよ!

「花田!」

 腕を掴まれた瞬間、近くにあった部屋に引きずり込まれた。三上って結構強引。

「俺ちゃんと断ったから」
「……」
「2番目とかもいらないし」
「……」
「なんで泣くの」

 ポロポロと涙が頬を伝う。三上が目の前にいる。はぁはぁと息を切らして。止まらない。感情が溢れて、止まらない。

「俺を取られたくないの?」

 コクコク頷く。

「俺に彼氏でいて欲しいの?」

 またコクコク頷く。

「俺のこと好き?」

 ブンブン頷く。三上はすごく嬉しそうに笑った。そして両手で私の頬を包んでむちゅっとキスをする。

「昼休み潰れたらごめんな」

 その言葉の意味が分からずにいると、三上が私を抱き上げて机の上に座らせた。そしてすぐにキスが降ってくる。ちゅ、と触れた後、唇を吸って。次に舌が唇をなぞる。思わず開けたら口内に舌が入り込んでくる。舌を舐めて、誘い出された舌を吸われて。
 気持ちいい。三上のキス大好き。優しくて、深いキス。
 三上の手がプチプチとブラウスのボタンを外していく。内心ではひえぇぇぇと焦っていたけれど、やめて欲しくなかった。三上に触れられるのはとても気持ちいい。

「……舞子」

 熱っぽく名前を呼ばれる。きゅんと下半身が疼く。私多分これ、欲情してるんだ。

「えっち、するの?」
「ここではしない。初めてがこんなとこ嫌だし。今日うち来る?」
「行く……」

 三上は色っぽく笑って、首筋に顔を埋めた。ちゅ、ちゅ、とキスされてくすぐったいような気持ちいいような。大きな手がブラの上から胸を包む。うわあドキドキする。ひぃぃ。

「舞子、可愛い」

 ずっと知っていたはずの人。ずっと近くにいて結構色んな顔知ってて。でも、こんな顔するんだ。ムラムラしてる時、私を愛してくれる時。苦しいくらいにドキドキして、胸がいっぱいになる。

「はー、やべ、抱きたい」

 色っぽい吐息を呑み込むように、自分から唇を重ねた。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -