心臓って多分3つある

「ふあぁぁよく寝た」
「……はよ」
「うん、おは……ひっ!!」

 三上の匂いがするベッドの中。三上の腕は私の腰に巻き付き、顔は目の前にある。

「な、なんで一緒に……!」
「ベッド1つしかないから」
「そ、ソファーで寝るとか、私なんてものは床に転がしといても……っ」
「お前を床に寝かせるわけねーだろ」
「……っ!」

 うっううう、こんなに女の子扱いされたの初めてだよ私……っ

「わ、私おっぱいはないけど挿れる穴はあるから……」
「あ?」
「未使用だけど……」
「下品だなオイ」
「わだじ、おんなのこだっだ……!」
「何に感動してんのかわかんねーわお前。オラ、早く用意しねーと遅刻すんぞ」
「イエス、イケメン!」
「それやめろ」

 その後三上は懇切丁寧に昨夜のことを説明してくれた。オムライスを食べた後眠ってしまった私をベッドまで運んでくれたこと。私が三上の服を掴んで離さず一緒に寝るしかなかったこと。

「全部わざとじゃねーよ。ま、抱き締められたのはラッキーだったけどな」

 と笑った三上に私の心臓はまた握りつぶされたけれど。

***

 人生で初めての彼氏ができた。しかも超ハイスペックな同期。それにそれに、何故か私のことが好きらしい!

「ほへー……」
「いつも以上に馬鹿面だな」
「坂井言い過ぎ。おーい、おーい、花田?」

 目の前でひらひら手が揺れる。すぐ近くに人の顔が見えて、それが課長だったからようやく意識が戻った。

「ま、松永課長!」
「あ、起きた。仕事中にぼんやりしすぎだよー」
「ごめんなさい!!」
「何やってんのお前」
「ひっ!!」

 今度は三上の声だ!!後ろから話しかけられてすぐに分かる。何故ここに!私がぼんやりしている原因の男が!!

「おー、三上」
「坂井、相変わらず元気そうだな。ちょっとこれ借りてっていい?」
「みみみみ三上くんじゃないですかどうしたんですか誰かに用事ですかえっ、私?まさかそんな」
「何なのこの子めっちゃパニックなんだけど」
「あー……」

 三上が私の反応に呆れたような困ったような顔をする。坂井は私と三上を交互に見て、ニヤリと笑った。

「三上ぃ、とうとうやったか!とうとうイッたか!」
「やめてくんない下品な言い方すんの。……まぁ、コイツにはじめから『普通』ができるなんて期待してなかったけど」

 三上はスッと背筋を伸ばして私と同じ課の人たちに向けて礼をした。

「花田さんとお付き合いさせていただくことになりました営業部の三上です。よろしくお願いします」

 ひぃぃ照れるんですけど!!悶絶している私の隣で坂井が「牽制えげつねぇ」なんて言っていたけれど、私はまたもや意味が分からなかった。

「で、どうしたの三上」
「昼飯。今日は何と駅前に出来た店のコッペパンだ」
「うっひょー、あの!噂の!さすが三上くん!」

 おめでとーと本当に祝われているのかただ冷やかされているだけなのか、拍手でいっぱいの課を出て三上を追った。


「ああ、美味しい……」

 いつもの屋上で。三上が買ってきてくれたコッペパンを味わっていると、三上はまた微笑んで「よかった」と言った。や、やめてくれないかなその顔ドキドキするからさぁ。

「で、昨日の話の続きだけど」
「えっ」
「別にお前は何もしなくていい。変わらなくていい。今のままでいい」
「うっ、うん」
「ただ合コンとか婚活はもうやめて」
「りょ、了解いたした!」
「……あと」
「うえ、」

 不意に三上が私に手を伸ばしてくる。色気を纏って。こんなに人って色気纏えるんだなって感動するほど。

「たまに触らせて」

 怖い。こんなに心臓が揺れるの、人生で初めてだもん。私は耐えられるのだろうか。とても不安だ。
 近付いてくる三上の顔にぎゅっと目を瞑って、すぐに開けた。

「だめ!私昨日お風呂入ってない!」

 色気がないのは百も承知です。

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