観察日記@
 合鍵を鍵穴に差し込む。右に手首を回すとガシャッと綺麗な音を立てて簡単に鍵は開いた。ドアを引くと、前のアパートみたいに古い金属の音は立たない。音もなくスムーズに開いたドアに少しだけ感動を覚えながら、俺は部屋の中に入った。
 スンスンと鼻を鳴らす。よく知った匂いではなく、知らない匂い。その中に微かに彼女の匂いが混じっている。胃がムカムカする。
 家の中は静かで、人気はない。俺は靴を脱いで丁寧に揃えると、中に入った。
 玄関を入ってすぐにキッチンに続いた前の1Kとは違い、リビングに行くまでに歩かなければならない。彼女の好きなキャラクターのスリッパを蹴らないように注意しながら廊下を歩いた。
 几帳面と見せかけて意外とガサツな彼女は、整理整頓が苦手だ。いつもリモコンを探していたし、携帯だってすぐになくした。その度に俺は「さっきあそこに置いていたよ」と笑いながら教えてあげたものだ。
 リビングに入ると、テレビの上にやはり彼女の好きなキャラクターのぬいぐるみが置いてあった。鞄の中から小型のカメラを取り出してそのぬいぐるみの中に入れる。裂いたぬいぐるみの背中から綿が飛び出した。
 そしてリビングを出た。家を出る前に、もう一つのスリッパを蹴飛ばしてやった。黒は彼女の趣味じゃない。
 いらないものは全部、削除しないと。そう、パソコンの中のデータを消すみたいに。

***

突発的に書き出したサスペンス的なの。続くはず。
( 08/25 05:39 )
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