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至福を求めて(仁王)





「じゃんけーん」

「ぽん」

「あーーっ!!」

「はは、まあがんばりんしゃい」


優は頭を抱えてうめいた。ついてない。なんでチョキじゃなくてパーを出さなかったんだ、自分のバカバカ。腹いせにコタツの中で思いっきり足を伸ばして、雅治の足に自分の足を乗っけてやった。そのまま仰向けにひっくりかえる。このままふて寝したい。ああ、でもやっぱりアレがほしい。

雅治は優の足の裏をぺちぺちと叩いた。


「さっさと買ってくるなり」

「女の子は体を冷やしちゃいけないって言うじゃん、だから雅治が行くべきだよ」

「後からそんなこと言っても遅いぜよ。約束じゃろ」

「チクショー」


優はしぶしぶ体をコタツから引き出して、側に丸めて置いてあったコートを着る。フードを被って、長いマフラーをぐるぐる巻きにして、ミトンをはめて、準備万端。コタツ机の上に放置してあった携帯をポケットの中に無造作に入れた。


「味は何がいい?」

「バニラ。できればモナカアイスがよか」

「ラジャー」


短く会話をして、寒々とした玄関に向かう。うう、家から出たくない。えっと携帯も持ったし鍵も持った。そこで優はいいアイデアを思いついた。そうだ、コレだ。ちょっとした寒さも恨めしい今となっては、やるっきゃない。冬空の下、コンビニに向かうモチベーションをちょっとだけ高めて、優は家から出た。

木枯らしがびゅうと吹いて、茶色く丸まった落ち葉が転がってゆく。優はコンビニの前に着くと、中には入らずに携帯を取り出した。そしてミトンをはめたまま器用に操作する。


『呼出中 仁王雅治
 090-XXXX-XXXX』


携帯から、プルプルプルプルと呼び出し音が聞こえる。早く出ろ、早く出ろ。カラカラと目の前を空き缶が転がっていく。顔を携帯ごとできるだけマフラーにうずめて待つ。


『もしもし』

「雅治ー、財布忘れたから持ってきて」


沈黙が落ちた。


『……お前さん、わざとじゃろ』

「えっえー、何のことかな」

『優が財布を取りに帰ってくればええ』

「もう体冷え切った、死にそう」


ブチリと音が途切れた。通話終了のプープー音がむなしく響く。それでも優は満足してコンビニに入った。もちろん財布を置いてきたのはわざとだ。それでもきっと、彼は財布を持ってやってくる。なんせ以前、自分に同じことをして財布を持ってこさせたのだから。
しばらくお菓子を物色していると、優と同じようにマフラーぐるぐる巻きファッションで、背中を寒そうに丸めた雅治がやってくるのが見えた。なんだかんだと冷たいことを言い合っておきながら結局相手を見捨てられないのが、この関係の甘さ。
中に入ってきた雅治は寒そうにぶるりと一回震えて、うらめしげに言った。


「お前さんにハメられる日が来るとはのう」

「『おまんが勝手にはまっただけじゃろ』って言ったのは誰だっけ?」

「プリ」

「ほら、でも冷え切った体でコタツに入ってほっとして、それから冷たいアイスが食べられるなんて至福じゃない。後の幸せのために今があると思えば」

「そんな自分を痛めつけるような趣味はなか」


ぼそぼそと言い合いながら、アイスを選んで買う。ついつい多めに買ってしまったけれど、頑張ってコタツから出たご褒美ということで。二人して背中を丸めてコンビニから出たところで、道路を隔てた道を若い男女のカップルが歩いて行くのが見えた。二人とも髪型まできっちり整えて、ぴしりとコートとマフラーを着こなし、背をまっすぐに伸ばしてさっそうと歩いて行く。彼らの手には、しめ縄や門松。お似合いの男女だ。


「あれ、D組の子じゃん」

「隣の男は男テニなり」


優と雅治は思わず顔を見合わせて、お互いの姿を眺め回した。もこもこになるまで適当に着込んだ服、ひたすら巻き付けたマフラー、丸めた背筋。手にはたくさんのアイス。
彼らと比べてなんと自堕落な。似たもの同士はここにもいる。

(20101227)

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