10000Hit&お正月企画 | ナノ
本日も迷いなく(跡部)





自分は甘えるのが下手なのか、甘えた方が女の子は可愛いというけれど、どこまで甘えていいものかためらわれる。どれくらいなら可愛いと思われるのか、どこからが迷惑なのか。何なら相手に好印象を与えて、何なら嫌われるのか。
計算して相手に甘えるなんてこざかしいじゃないかと言われそうだけど、たとえ他の誰かから非難されたとしても彼には嫌われたくない。心の中で計算することくらいは乙女心だと思って許してほしい。

跡部景吾が季節を節目をどう過ごすのかなんて、入学した当初から噂になっていたから、もちろん私だって知っている。それでもこうやって彼と近しい関係になるまで、彼の生活の仕方にここまで悩まされるとは思ってもいなかった。

私が彼の恋人だったなら、もっと素直に言えたかもしれない。でも私はただ「近い」だけ。自分では、かなり仲が良いと思っているし、友達にも「跡部くんともう付き合い始めた?」なんて聞かれるのだけど、実際はどうだか。モテる彼のことだ、もっと仲の良い女の子なんていっぱいいるかもしれないし、みんなに隠しているだけで既に彼女がいるのかもしれない。
そうやって彼との関係について一回考え始めると、悪い方にばかり考えてしまう。私の、臆病者。何かがあっても自分が傷つかないように、予防線ばかり張っている。同じようにフられたとしても、良い結末ばかり夢見てるよりも最悪の事態を想定していた方がダメージが少ないに違いない。

明日で学校も終わり。終業式が終われば、しばらく彼には会えないだろう。


「ふん、そういうことか」

「うわっ!な、何が」


教室でぼけっと立ったまま考え事をしていると、いつの間にか彼がそばにいた。優は焦った。しまった、ぼうっとして彼のことを無視してしまっていたかもしれない。
彼は片手を顔にあてた状態でじっと優を見据え、不機嫌そうに唇をゆがめた。そして、ちょっとこい、と言うといつもの強引さで優を連れて生徒会室の方へ向かう。しっかりと、しかし優しく優の腕をつかむ彼の手の感触に、心が苦しくなる。彼に触れられることが喜びを生み出せど、苦しさの元になるなんてどうして想像できただろう。

生徒会室の中でもついたてに隠された奥の一角、景吾のための場所にひっぱり込まれる。中にはソファとテーブル。優は少々乱暴に、ソファの上に投げられた。


「おい、優。俺様のインサイトを見くびるなよ」


ぼすんと音を立てて、優は柔らかいソファにしりもちをつく。目の前で仁王立ちになってこちらを見下ろす彼に、目を見開く。いつもの彼らしからぬ、荒っぽい行動。つまりそれだけ、彼をいらだたせる何かをしてしまったということだ。
優は泣きたくなって、口元が歪むのが分かった。それでも今は泣けない。泣いて許しを請うなんて卑怯だ、それこそ迷惑な甘え方だ。


「そういうことじゃねえ」


何を指してそう言っているのだろうか、彼は苛立った声を出した。優は彼の強い視線に耐えられなくなってうつむいた。どうしたらいいのか分からない。
沈黙が落ちていた空間に、ふいにパチンと音が響く。視線だけ上げて様子を伺うと、彼は携帯でどこかに電話を掛けていった。そして早口で、たぶん英語で何かをしゃべっている。


「おい」


電話を終えたらしい彼に、相変わらず苛立った口調で話しかけられて、優は身をすくませる。ふ、とため息が聞こえた。


「最近妙に元気がねえと思っていた。何で言わなかった」

「っな、何が」


まさか、ばれた?でもこの願望は、友達にも誰にも話していない。だって、迷惑だから。


「さっき執事に電話した。今年は日本で過ごすことにした。年末のヨーロッパ旅行は中止だ。ちょっとは素直に甘えやがれ」


優は彼を見上げた。きっと口がまぬけに開いているだろう。


「何で、だって、いつもヨーロッパで年越しするって」

「だったらどうした」

「何でそんなに簡単に、止めるって」

「あーん、不満か?お前はそっちの方がいいだろう」


優は口をつぐんで黙った。跡部景吾は毎年、年末年始はヨーロッパで過ごすという噂がある。テニス部員も言ってたから本当のことだろうと思って、そして事実かと聞くことが寂しくて、彼には直接確認しなかった。
海外で過ごすということは、しばらく会えなくなるってこと。普段なら、ためらいながらもまだ気軽に会いたいとか遊びに行きたいとか言える。でも、海外に行っちゃうなら、一緒に初詣に行ったりもできない。もしかしたら、ヨーロッパに好きな人でもいるかもしれないし。
そう思うと、なおさら何も言えなくて。どこにも行かないで、なんて。


「何で、それだけで」


景吾は優雅に腰を折ると、ソファにひっくりかえったままの優の耳元に口を寄せた。そして、言葉を紡ぐ。相変わらず、不機嫌そうな声ではあったけれど。


「それだけ俺様にとって重要だということだ」


(20101227)

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