10000Hit&お正月企画 | ナノ
演武一徹(日吉)





「今年の目標は全国大会優勝だね」

「ああ。あの跡部さんたちも成し遂げられなかった全国制覇を、絶対に俺が達成してやる」


若は口元を引き締めて、不敵に笑った。若は今日も朝早く起きて、初日の出の光を浴びながら走り込みをしたらしい。誰もがゆっくりと体を休めるお正月だというのに、若には関係ないようだ。彼は挑発的だとか生意気だとよく言われているのだけれど、それは若の強い向上心の、一つの現れ方なのだろう。
自分の歯が立たぬほど強い相手に出会ったときの若の瞳のきらめきは見事なものだ。爛々と強い光を放って、虎視眈々、下剋上という言葉がぴったり当てはまる。まさに野心家といえばいいか。自分よりも遙か高い場所にいる人を見ると、たいていの人は単なる憧れを抱いたり、畏れたりするだけだと思うのだけど、彼は逆に、挑戦しがいがあると興奮するようだ。


「今年もテニス一筋だね」

「ああ。もちろん、古武術の鍛錬も怠りはしないけどな」


普段は若とは喧嘩してばっかりだけれども、こういうところは素直にすごいと思う。
初詣の帰りしな、神社から続く公園の広場に、人だかりができていた。あれはなんだろうと近寄って見てみると、人々が囲んでいたのは、テニスコートとバドミントンのコートを足して割ったような小さなコートがあった。そのコートの周りには、普段着の上からゼッケンを着た男の人が集まっている。


「なんだ、あれは」

「あそこ、なんか書いてあるよ。『2011年お正月 羽根突き勝ち抜き戦』……?」


飛び入りで参加者を募っているらしい。コートの横にはマイクを持った司会らしき男性が立っていて、周りの人たちに声を掛けている。


『さあ、参加したい方、他にはいらっしゃいませんか。年齢性別、参加資格は問いません。最後まで勝ち抜かれた方に豪華な商品を用意しております』

「ふん、羽子板なんて女子の競技だろ」

「元々はそうだよね、確か」

鼻で笑って、小さな声で若が言う。でもゼッケンを着ているのはなぜか男の人ばっかりだ。そんなに豪華な賞品でも出るのかな。彼はそんな参加者たちの姿を見て、つまらない遊びだと思ったらしい。しかし、いくぞ、ときびすを返した若は、目の前にいた男の人たちの声を聞いてぴたりと足を止めた。


「今年も水口さんの優勝かねえ。もう5年連続なんだろ?」

「ああ。去年はテニスクラブのコーチかなんかが決勝で挑んだけど、あえなく敗れたって話だ」


優は、若の瞳がぎらりと光るのを見た。


***


「あの子供、新人か?決勝まで来るとはやるなあ」

「ま、でもどうせまた水口さんの勝利で終わりだろ、あの人は強すぎる」


周りの人たちが、口々に若の負けを予想している。優は一人観客の中に混じって、コートに立つ若をはらはらして見ていた。彼は羽根突きなんてやったこともないだろうに、慣れぬ様子でぎくしゃくしていたのは初戦だけで、あっという間に羽子板に慣れてしまった。そして危なげなく回りの参加者達をたたきのめして決勝までやってきた。
若と対峙している水口さんとやらは、いかにもスポーツマンという感じの若い男性だった。彼は余裕の表情を浮かべている。対する若は目をぎらぎらとさせている。

サーブをしようと水口さんが構えた瞬間、若は今までしていた構えをすっと崩した。水口さんは虚を突かれたようでぎょっとした顔をした。観客も若の姿を見てざわめいた。


「なんだあの構えは!」

「見たことないぞ……、ヤケになってんのか」


優は瞠目した。あれは、演武テニスの型だ。
気を取り直してサーブの構えをし直した水口さんは、「はっ」と気合いを入れて羽子板をスウィングする。うねりを上げて、羽根がすごいスピードで若に向かって飛ぶ。
若は不敵に笑って、腰を落とした。





こうして若は優勝した。
呆然としてコートに膝をつく水口さんを尻目に、若は意気揚々と引き上げる。あっさりと勝負のついた決勝戦に、同じようにぽかんとしていた司会の人は、近づいてきた若を見て、慌てて『優勝者は日吉若!』と宣言し、商品を渡した。しーんと静まり返っていた観衆がどっと沸く。
若は不敵な笑みを浮かべたまま優の元へ返ってきて、一身に集まる視線を気にもとめず優の手をつかんだ。


「帰るぞ」


人の波をすり抜けて、優は若に手を引かれて歩く。涼しい顔をしている彼に思わず、興奮の冷めやらぬまま声を掛ける。


「若、格好よかったよ」

「当たり前だろ」


彼はふん、と鼻で笑って振り向いた。彼の瞳にはもう猛々しい光は消えていた。その代わりに写っていたのは、まっすぐに若を見つめる自分の姿。


(20110101)

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