10000Hit&お正月企画 | ナノ
二人合わせて(宍戸)





無理はしないという約束をした。お正月は大切な行事だから、それぞれやるべきことを尊重すべし、と。だから、その日に亮と会ったのは日が暮れてからになってしまった。
まだかまだかと彼を待っていた優は、迎えに来たぜ、と亮がうちの家の門扉で言うなり、家から飛び出して彼に飛びついた。


「亮、あけましておめでとうっ!」

「あけましておめで……おおっ!?なんだ、どうした」

「久しぶりに会った気がしたから。なんでだろ」

「言われてみりゃ、俺もそんな気がするな。……遅くなっちまったけど、初詣、行くか」

「うん!」


寒いし混んでてはぐれそうということを言い訳にして、亮の左腕にしがみつく。ぎこちなくなった亮を「ふっふー、照れてるねえ」とからかうと「うるせえ!慣れてねえんだよ」と、反発しているのか素直なのか良く分からぬ台詞が返ってきた。
外は既に真っ暗なのに、街には活気があった。そこここで家族連れが歩いていて、元日だというのに開いているお店も多い。家の中にあるなんとなくめでたい正月気分が、街中にもあふれ出ていて、今ならなんでもやれるという気にさえなってくる。
もうこんな時間だというのに、神社にもまだまだたくさんの人がいた。さすがに、ピーク時よりはずっと少ないみたいだったけれど。鳥居をくぐってすぐに列の最後尾に突き当たる。本殿の前に付くまでにはまだまだ時間がかかるようだった。


「亮は、午前中どうしていたの」

「親戚中に挨拶回りだな。おせち食わせてもらったり、女手の邪魔にならねえように小さい従兄弟の面倒みたり」

「へえ、いいなあそういうの。お正月って感じだよね」


亮は視線を宙に浮かせて、ほほを掻いた。思い出すような仕草をしてから、苦笑する。


「暴れ回る子供の相手をすんのも、正座でじっとしてんのもつらいもんだぜ。でも、ま、確かにそれはそれで正月っぽくていいかもな」

「うん、うちは親戚がこのあたりに居なくて、そういうの、できないんだよね。うちの家族内で完結してる感じ」

「へえ。じゃあ優は日中何やってたんだ」


優は首をひねった。言われてみれば何もしていない気もする。いやでもずっと寝てたってわけでもないし。いつも通りのお正月を過ごした。ああ、でもよく考えてみたらいろいろやっている、か。例年通り。


「あのね、朝から買い物に行ったの!」

「買い物だあ?正月って普通、買いだめしてから迎えるんじゃねえの?」

「日用品じゃないよ、ほら、福袋買いに。洋服買ってもらった!」

「ああ、そういやそれがあるのか。良かったな」


じわじわと人の列が進んでいく。途中まで進んだところで、列の隣に手水舎(てみずや)があるのが見えた。青銅色の龍の口から水がちょろちょろと流れ、その下にある石造りの水盤に水をためる。手水舎の横にきた参拝者は、次々と柄杓で水をすくって手を清めている。
前の人に習って、木の柄杓で透明な水をすくう。ゆっくりと傾けて左手の上に水を注ぐと、氷のような冷たさだった。


「ううう冷たいっ」


作法だから仕方ないけれど、さっきまで手袋でぽかぽかと暖められていた手が一気にかじかんだ。左手、右手、口をすすいで、もう一回左手、それから柄杓の柄を洗っておしまい。寒い思いをしたくないと急いで終えたけれど、冷たい水の前でその努力は無意味だった。
隣を見ると、亮は粛々と手水をしていた。


「亮、冷たくないの?」

「んなわけねーだろ。でも俺はこういうの結構好きなんだよ」


優は瞠目した。手水が好き?


「マゾ?」

「……お前、もうちょっとましな考え方はできねえのかよ。なんつうか、気が引き締まるだろ」


呆れたような顔をして、亮は几帳面にたたまれたハンカチで手をぬぐう。


「そっか。……でも、気が引き締まるを通り越して手が冷たい」


ここまで冷えたら手袋は無意味だ。優は手に息を吹きかけながら、合わせてこすった。


「ほら、手、貸せ」


こすっていた手が、亮の手に包み込まれる。
彼の手も手水で冷たくなっていたけれど、こうやって手を合わせればすぐにあたたかくなるだろう。


(20110101)

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