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屈折した初詣(財前)





同じクラスの謙也がいじり倒されていたのはてっきり謙也がヘタレだからだろうと思っていたが、大間違いだった。謙也がヘタレなのは事実だけど、財前光はそれ以上にサディスティックだった。


「はよ男捕まえんといきおくれ決定や。優先輩から若さを取ったら何も残らへん」


三年生の教室に入って謙也をいじってると思ったら、私にこんなことを言う。ニヤつくでも嫌悪感を浮かべるのでもなく、表情を変えずにただ淡々と言うのだ。どちらかというと気の強い私はむっとして言い返す。


「ほっとけ、光には関係ないし!いきおくれたら謙也にもろてもらうわ」

「お、おう」

「謙也先輩死んでください」


挙動不審ながらもちゃんと私に合わせてくれた謙也を、光はあっさりとぶった切った。そして「なっ、なんでやねん!」と抗議する謙也を軽くいなして、彼はこちらに向き直った。そして今度はにやりと笑ったのだ。


「俺くらいやないと、じゃじゃ馬の優先輩は手に負えませんわ」


そこから話は転がって、あれよあれよという間に私は財前光と付き合っていることになっていた。小春ちゃんから聞いた話をまとめると、その台詞は光なりの告白だったらしい。……あんなに甘さのない告白をする男子なんて、光以外にいるまい。おまけに謙也の前だったし。どれだけ下に見られているんだ、謙也は。
流れで付き合うようになったものの、私は光のことが好きになった。たぶん相性がいいのだと思う。私のような気の強い女が謙也みたいな優しい男と付き合ったら、男のことを疲れさせてしまいそうだし。後で光に「何で私を好きになったん」と聞いたら「気が強い女は支配したくなる」と、これまた甘さが皆無な返事が返ってきた。コイツ本当に私のこと好きなのかと思うこともしばしばだったけれど、こうやって一緒に初詣に来ているんだから、たぶん好かれているのだろう。


「優先輩は何を神さんにお願いしたんすか」

「家内安全と学業成就と、それから――」


元旦の神社の境内には、人の頭しか見えなかった。せっかく本殿の前に来ても、後ろの人の迷惑になってしまうから長々とお願いするわけにはいかない。だからできるだけ端的にお願いしようと、お守りの言葉を借りた。
私の台詞を、光は鼻で笑い飛ばした。


「はっ、つまらん。まあ優先輩は自分でお願いせんでも大丈夫や」

「つまらなくても人類普遍のお願いやろ!私がお願いせんでもええてどういう意味よ」

「俺が先輩の分もちゃんとお願いしといたさかい」


本殿に背を向けて、鳥居を目指して歩く。足下からはざくざくと砂利を踏む音が聞こえる。道の両脇には屋台が並んでいて、そこから美味しそうな香りがただよってきた。
私はいぶかしく思って光の顔を横目で観察した。相変わらずのポーカーフェイスで何を考えているのかさっぱり分からない。


「お願いって、何を」

「優先輩のブッサイクな顔が、今年こそはマシになりますようにってお願いですわ」

「誰がブッサイクや!私にそんなん言うんは光ぐらいや!!」

「そら、みんな遠慮して何も言わんだけや」


矢継ぎ早にドSな発言をして人をばっさばっさ切り捨てていく光の性格は、残念なことに今年も変わらぬようだった。

そんなわけないやろ!だいたい、自分の彼女にブサイクブサイクって言うってどない神経しとんねん、おかしいやろ。そのブサイクに告白してきたんは誰やっちゅーねん。それともなんや、実はそのブッサイクな彼女を連れて歩くことに快感を覚えるドMなんですとでも言う気ぃなんか。光は私のこと気ぃだけは強い女やって言うけど、気ぃ強くても女やし、これでも傷つくねんで!それに――

ぶつぶつ言い返すけれど、途中で違和感に気がついて優は黙り込んだ。あの毒舌光が何も言わないのはおかしい。隣を見ると、光は消えていた。

はぐれたか。慌てて見回すと、少し後ろの方の屋台で何か買っている光の姿を見つけて、優は脱力した。……光のやつめ。こっちの話なんて聞いてやしない。これはマイペースとかそういう問題じゃないと思う。

戻ってきた彼の手には二つ、甘酒があった。光は無言で片方を飲みながら、もう一つを優に押しつける。優は呆れて半目になったがありがたく受け取った。冷えた体に甘酒は優しい。甘酒をすすりながら、黙って二人で歩く。巨大な橙色の鳥居をくぐったところで、光は声を上げた。


「神社でお願いすると、帰りに鳥居をくぐったときに神さんが返事してくれはるって言うやないですか」

「うん、言うね。何か聞こえたわけ」

「ここの神さん、いっくら神の力をもってしても先輩の顔を綺麗にするのは無理やって言うたはりました」

「神さんがそんなこと言うか!ていうかまだ引っ張るかそのネタ!」


光は飲み干した甘酒のカップをぐしゃりと握りつぶして、飄々とうそぶいた。


「こんなブッサイクな優先輩をもろてくれるのなんて、一生で俺くらいですわ」


(20110101)

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