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古き人々の夢(不二)





迷惑になるからと遠慮し続けたけれど、彼は強かった。

話の発端は、2学期の末に教室で友達と夢占いの話をしていたときにまでさかのぼる。今年は初夢で怖い夢を見たとか、来年は好きな人の顔がみたいとか、好きな占い師さんの話とかをしていた。休み時間が終わって優も友達も自分の席に付き、本当ならそこで話が終わるはずだった。でもその日の放課後、5時間目の授業が終わった直後に、隣の席の不二くんに突然話しかけられたのだ。


「占い好きなの?由美子先生がどうのって言ってたけど」


彼は教科書を重ねて、とんとんと揃えていた。まさか彼に占いの話を振られるとは思わなくて、優は意外に思った。テンションが上がったけど、好意を抱いている彼に変に思われたくなくて、普通に話そうと心がける。


「うん、そうだね。不二くんも、由美子先生のこと知ってるんだ?」

「ああ、うん……その、姉さん、なんだ」


ごく自然に言われたから、優は一瞬、彼が何を言っているのかが分からなかった。……誰が誰の姉さん、だって?不二くんはそんな優を見て、苦笑した。


「え……ええええっ!!」

「夏目さんがさっき欲しいって言ってた夢占いの本、うちにあるんだけど。あげようか?」


人気のあまり手に入りにくくなっている本だったから、優は飛び上がって喜んだ。あまり不二くんに迷惑をかけたくなくて、取りに行くと言ったのに、彼は「渡せるのは冬休みになるから、持って行く」と言い張った。そして結局駅で落ち合うことになって。不二くんの家から駅まで結構距離があるらしいのに、悪いことをしてしまった。

年末の駅には、人がたくさんいた。駅に、というよりも駅に隣接する百貨店や商店街に人が多かったという感じだけれども。待ち合わせ場所には既に不二くんがいて、人混みの中、優に手を挙げてみせた。


「はい、これ。二冊あるけど、両方いる?」

「うん。ありがとう!これね、本屋さんをはしごして探してたんだけど、どこでも売り切れちゃってて。やったー!本当にありがとう!はい、これ」


由美子先生の夢占いの本はぴかぴかとお洒落な表紙を輝かせていた。優は受け取った本を抱きしめてニコニコ顔になった。ずっと欲しくて、でも売ってないから重版を待つしかないと半分諦めていたのだ。そして忘れずに白い封筒を不二くんに差し出す。彼はいぶかしそうな顔をした。


「これ、もしかして……お金?本の代金ならいらないよ。夏目さんは特別に」

「え、でも安いものでもないし」


不二くんは困ったような顔をした。でも引くわけにはいかない。持ってこさせた挙げ句、無料でもらってしまうなんて申し訳なさすぎる。彼はしばらく眉をハの字にしていたが、しばらく考えてからニッコリ笑った。


「じゃあこれからお茶でもしない?お正月の準備が終わって暇なんだ」

「……そんなんでいいの?」

「もちろん。さあ行こうか」


彼は返事を聞く前にさっさと優の手を引いて近くの喫茶店にするりと入った。口を挟む隙もない。いつの間にか彼と小さなテーブルを挟んで向かい合って紅茶を飲んでいる自分に呆れた。これじゃあ、迷惑かけっぱなしだ。
彼は何も気にした様子なく、クスッと笑った。


「お正月の初夢の話、知ってるよね。一富士二鷹三茄子、っていうやつだけど」

「うん、残念ながら今まで見たことないけど。どうしてなのかなあ」

「具体的にイメージがしにくいものだからだろうね。富士山と鷹はそこまで身近なものでもないし」

「そっか、確かに富士山とかテレビでしか見たことないや。富士山じゃなくて不二くんなら身近なのに」

「じゃあ僕の夢見てよ」


えっ、と顔を上げると、彼はいつもの微笑みを浮かべてこちらを見ていた。僕の夢見てよ。……えっと、どういう意味?ただの言葉遊び?からかってるの?真意が読めなくて、さぞかし今の自分は変な顔をしていることだろう。


「ええっと、その」

「嫌かい?」

「いやいやいや!あ、違う、嫌だって意味じゃなくてその」

「そう……嫌だなんて悲しいな。僕は君の夢を見たりしているのに」


彼は悲しそうに目を伏せている。ちょ、ちょっと待って、何この展開!どういうことなのっ!?由美子先生の本を得て上がっていたテンションが、今度は変な方向に上がり始めた。変な期待と不安と半分恐怖で胸がばくばくする。
不二くんは突然表情を変えて、ニッコリ笑ってこちらを見た。


「夢占いは千年以上も前からあるんだけど。好きな人が夢に出てきたってことは、相手も自分のことを好いているからだって、昔の人は考えたんだよ」


優は顔に血が上るのが分かった。私が彼を好きだってばれてるってことだよね、つまり。あれ、今「好きな人が夢に出てきた」って言った?それって、さっきの不二くんが見た夢のこと?「好きな人」?え、まさか?
何かを言おうと必死で口を開いたのに、言葉が何も出てこない。金魚みたいにぱくぱくする優を見て、不二くんはクスッと笑った。


「つまり、心配しなくても、僕は君の夢に出るってことだよ」


優が彼の言葉をちゃんと理解できるまで、もう少し時間が必要だった。


(20101230)

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