10000Hit&お正月企画 | ナノ
たべもの談義B(甲斐)





親も本州出身、自分も本州出身。沖縄の風習をぜんぜん知らないと言ったら、裕次郎からはいつものイントネーションで、いろいろ教えてやるさー、明日うちぬ前ぇに来い、という返事が返ってきた。ありがとうと謝意を伝えると、彼は善は急げやっさー、と笑う。好きなことわざ、らしい。

こちらへ来た当初はしょっちゅう彼に「これだからやまとんちゅ(本土人)は」と馬鹿にされてイライラした。でも、怒鳴り返して喧嘩したらどういうわけか仲良くなれた。黙り込まずに食ってかかった私に、彼はびっくりしたような顔を向けて「やー、根性あるな」と言った。根性っていうよりも短気なだけなんだけどね。雨降って地固まる、ってやつなのかな。

裕次郎は、Tシャツにパーカーを羽織って立っていた。潮風はひやりとしているが、薄着でも寒くない。合流してから、二人で市場に向かう。こっちの市場にはもう何回も行っているけど、お正月のときは雰囲気が違うそうな。


「12月末になっても分厚いコートを着ないで良いなんて、変な感じ」

「動きやすいだばあ?」

「確かに。それに寒いの好きじゃないからこっちのがいい」


裕次郎はにやりと笑ってからかうような口調で言う。

「わん、やーぬそういうところがしちゅんやっさー」

「おや、愛の告白ですかー?」


にやりと笑い返すと、裕次郎はぱかっと口を開けた。みるみる顔が赤くなる。そりゃあ、からかうつもりで「しちゅん(好き)」だって言ったのにあっさりばれたらそうなるよね。


「なっ……!何で……!」

「わんをなめるな。ちょっとうちなーぐち分かるようんかいなっのみぐさぁ」


沖縄には高校も大学もあまりないから、きっとそう遠くないうちに本州に戻ることになるだろう。でも、うちなーぐち(沖縄語)が分からないと馬鹿にされ続けるのもしゃくだったから、隣のおばあちゃんに習ったのだ。
裕次郎はちょっと恥ずかしそうにしたままぼそぼそと言う。


「少しイントネーションがあらん(違う)けど」

「どういう風に発音したら正しいの?」

「ちょっとうちなーぐち分かるようんかいなっのみぐさぁ」

「ちょっとうちなーぐち分かるようんかいなっのみぐさぁ」

「うん」


なんだかんだ言って、裕次郎は面倒見がいい。こうやって教えてくれることといい、わざわざ市場に連れて行ってくれることといい。
そして市場では、彼が言ったとおり、予想していたものとは全く違うものが売られていた。


「これ、おせち……じゃないよね」

「おせちは本土者の風習やっさー。暑いから、おせちみたいに保存ができないんさぁ」


彼が指したのは、なんと表現したらいいものか、「寿」と書かれた入れ物に料理がいっぱい入っているが、それが豚肉の料理だったりして、おせち料理ではない。そう、沖縄風オードブルって感じだ。


「お雑煮は?」

「んー、そっちも豚のソーキ汁。餅は入れん。屋台ではヒージャー汁も売っている」

「ヒージャー汁?」

「山羊の汁。やーはたぶん食べられないさあ」

「なっ!食べられるよ!そりゃあ、山羊刺しとかは苦手だけど!」

「まぢなぁ?」

「いいよ、食べてみせる!」


裕次郎はニヤニヤしている。なんだかいつもよりも嫌な予感がするが、言ってしまった以上、後には引けない。
ふと、前にここのあたりにある飲食店で食べた山羊刺しを思い出した。こう言ったら失礼だけど、すごく臭かった。マトン肉のくせをもっと強くしたような味。獣の臭いという言葉がぴったり当てはまるような。その時は、たしか水で肉を胃に流し込んだ。
でも、その山羊肉が汁になっているってことは、汁全体にあの臭みがにじみ出ているということで……。
想像しているうちに山羊刺しの味を思い出して、思わず口に手をやる。裕次郎はニヤニヤ笑いながら、ぽんと頭に手を乗せてきた。


「わん、やーぬそういうところがしちゅんやっさー」


そう言って頭をなでられて、嬉しいのか腹立たしいのかよく分からない気分になる。ぷいっと顔をそらしたら、裕次郎がくくっと笑う声が聞こえた。


(20101229)

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