1000Hit&X'mas企画 | ナノ
 




お金をかけることが楽しいデートじゃない。大事なのは、一緒にいること。そして、身の丈にあった金額の中で工夫をしたり、いかに楽しむかが、命。

そういう結論にたどり着いた二人は、町中がクリスマス色に染まるにつれて、頭をひねり始めた。あっちがいいかな。いやでもこれもいいね。そっちだとちょっと高いかも。祭で一番楽しいのは準備をする期間だと言われることがあるけれど、それは正しいかもしれない。なんせこの二人は、ハローウィーンが終わって、繁華街がクリスマス商戦に向けてあれやこれやと宣伝し始めたころから、クリスマスデートの予定を練っているのだ。一緒に遊びに行くたびにどこがいいここがいいとスポットを調べ、時間があればネットで情報を集めて教えあったり。

でも金銭的な問題から、結局は中学生の普通のデートコースに落ち着いた。でも、それでもいい。だって、そうやって一緒にああだこうだと言うことが楽しいんだから。




その日、二人はショッピングモールにいた。夕方だけれどもあたりにはもう明かりがたくさん灯っている。街中が、クリスマスで浮き足立っていた。ときどきクレープなのかケーキなのか、甘い香りが漂ってくる。ときには、パンやチキンのいい香りも。


「うわあ、いい香りー」

「香水っぽい香りも今日はいつもよりもたくさんするの」

「うん!なんかクリスマスって感じ」


あちこちでクリスマスのイベントがやっていて、見るものがいっぱいある。サンタの格好をした店員さんやイルミネーションはもちろん、赤い服を来たテディベアがいっぱいいる空間があったり、ピエロの格好をして大道芸をやっている集団がいたり、いい意味でカオスだ。


「あっ、あれ見て、マサ!」

「ちょうどいいな、あそこにするか」

「うん!」


向かった先は、アクセサリーショップ。値段の安いプラスチックやシルバーアクセから金のものまで、ちっちゃくて可愛らしいデザインのものからいかついパンク系のものまで、ありとあらゆる種類のアクセサリーがそろっている若者向けのお店だった。そこでもやっぱりクリスマス商戦が行われていて、キンキラキンのモールで店内が飾り付けられている。


「美波、こっちはどうじゃ?」

「あ、それ可愛いかも。む、これは?」


二人は頭を付き合わせて、棚をのぞき込む。頭がこつんと当たったけれどこんなのいつものこと。目の前に並ぶシルバーアクセを選ぶのに二人とも必死だ。


「これはどうじゃ」

「それいい!あ、名前のイニシャル、無料で入れてくれるんだって」

「ほう、ちょうどよか」


初めてのペアアクセ。二人は、銀の板のついたネックレスを選んだ。店員さんに頼んで、付き合い始めた日付とイニシャルを彫ってもらう。


「美波、俺が付けちゃる」

「じゃあ、マサには私が付ける」


受け取ったネックレスを彼に付けてもらう。ひやりとした鎖と、そして彼の少し体温の低い指先が首に当たる。それがくすぐったくて、ひゃっと言って首をすくめたら、彼はわざと首をくすぐってきた。


「もうっ!」

「はは、すまんすまん、そういうところもかわいいぜよ」

「……もう」


ぽんぽんと美波の頭をなでた彼は、もうそろそろ家に帰るぜよ、と笑った。


***


スーパーの袋を手に持って、雅治と美波は住宅街を歩いていた。足取り軽く歩いて行く雅治とは正反対に、美波は心配そうな表情をしている。


「プリ。うち、ここじゃ」


彼はさっさと家に入ろうとするが、美波は門のあたりで少し、ためらう。


「ねえ、ほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫じゃ。誰もおらん。親は北海道やきに」

「お姉ちゃんと弟くんは?」

「姉貴は社会人で家出とる、弟は友達ん家におる」


背中を押されて家の中に通される。彼は慣れた手つきでぱちりと電気をつける。そのまま台所に通されて、美波は鞄から、前々から印刷しておいたクリスマス料理のレシピを取り出した。


「あ、マサ、エプロンある?」

「これ使うナリ」

「おそろい!」


エプロンを広げてはしゃぐと、落ち着きんしゃい、と雅治に笑われる。でもいいじゃない、クリスマスだし!!えっと、今日のメニューはフライドチキンとリゾット、サラダ、スープ。スープにはパイ生地も重ねちゃえ。


「さあ、どれから作ろうか」

「んー、これかなあ、時間掛かりそうだから。下味付けとけば良かったね」

「そうやってあたふたするのも醍醐味ぜよ。美波は料理できるんか?」

「ううん、全然できないよ!」

「……男らしい肯定じゃの」

「家庭科ではどうにかなったから大丈夫!」

「…………プリ」


なんか怖いぜよ、と雅治はぼそぼそ言っているが、美波は彼の言葉をまるっとスルーした。とう、と気合いを入れて野菜に包丁を入れると、スコン、といい音がした。


調味料を混ぜ、野菜を洗い、食材を切り、鍋を火に掛けて。一手進めるたびにレシピをのぞき込んで、真剣に料理をする。なんたって、今日の晩餐がかかっているのだ。集中していたせいか、つい二人とも無口になる。


「クリスマスでこれはちょっと寂しいぜよ」


雅治が、台所の横にあるラジオをひじで押した。しばらくザザザ、と音がしていたが、すぐに音楽が流れ始めた。街でも流れていた、クリスマスソングの名曲。ノリノリで歌いながら二人で料理を進める。
しばらくして、美波がぴたりと手を止めて雅治の方を向いた。


「ね、この曲ってさ。実は失恋ソングだよね」

「そうだな、曲調は明るいが」

「いい曲だけどさ、なんでわざわざクリスマスの街中でも流すんだろ」

「きっと独り者への応援ソングじゃろ」

「むしろ傷口えぐってない?」

「そうかもしれんの、でもどっちでもよか」

「ひどいことをあっさりと」

「おまんもな」

「なんでよ」

「俺の言葉に、実は同意しとるじゃろ」

「うっ」


美波はぐっと詰まった。


「だって、なんかさ、今は失恋とか雅治なしのクリスマスとか考えられないもん」


わざと鍋を覗きこんで顔を合わせないようにしつつ、いい訳をする。ラジオからはまだ、失恋クリスマスソングが流れ続けている。雅治は何を思っているのか、隣は静まり帰っている。どうしよう、何か言われるかな。
やけになってスープをぐるぐる混ぜていると、どんと後ろから衝撃がやってきた。


「美波」

「なっ、ちょっ」


雅治はサラダボウルを放り出して、背後から美波に抱きついてきた。自分の首筋に彼のほほが当たる。腕が体に回されて、ぎゅっと抱きしめられた。


「来年も一緒にいような」

「うん」


静かに失恋ソングは終わりを迎えた。次に流れてきたのはサンタさんとトナカイの明るい歌。でも今なら、どんな曲が流れてきても大丈夫。こうやって二人で過ごせる時間を、悲しませるものなんてない。



(20101222)

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