拍手お礼 | ナノ
「ほな、帰ろか」
いつものように校門に着くと、いつものように石田くんが待っていた。いかめしい顔をほんの少しだけゆるめて。私は笑みをこぼして、彼の隣に並ぶ。やたらと体格の良い彼の隣にいると、安心感があった。日はすっかり暮れて、街の街頭がようやく道を照らしている。あたりを歩く人は多いけれど、だんだんと夕方の一人歩きが怖い季節になってきた。
「昨日のニュース、そっちのクラスでも聞いたか」
「うん、なんでも駅のそばで痴漢が出たとか」
「ホンマに最近はぶっそうやな、一人で帰ったらあきまへんえ」
「……うん、ありがと」
私は素直に返事をした。一緒に帰ってくれるという彼の言葉が嬉しい。でも、同時に悲しくもある。やっぱり、私のことなんてどうとも思ってないんだろう。せいぜい妹みたいな感じで。
部活がどうしたとか授業がどうだとか、日常的ないつもの会話を交わしながら、二人で家路に着く。学校を取り囲む住宅街を抜けて商店街に入ると、そこここでクリスマスソングが流れていた。
「もうそんな季節なんだね、一年が早かったように思うよ」
「関西で年の瀬を過ごすんは初めてやろ」
「うん。今年関東からこっちに来たから……、関西のクリスマスやら正月やらは、関東と同じなの」
「そうやな、あんまり変わらんと思うで。神社仏閣の行事はぎょうさんあるが」
聞いてみようか。だんだん苦しくなってくる。耳から入るクリスマスソングが痛い。できるだけ普通の声で、普通の態度で。
「石田くんは、クリスマスはどうするの?」
「イブはテニス部で集まってパーティーやな。毎年こうなんや」
あっさりと返事が返ってきて、若干私はへこんだ。恋人はいないらしい。それは嬉しいけど、私なんて目にも入らないんだと思うと落ち込む。やっぱり妹扱いなんだろうなあ。
「恋人と一緒にすごさはるんか」
「えっ?ううん、恋人いないし……、イブは女の子とデート、かな。クリスマス当日は何もないけど」
「そら華やかで楽しそうやな」
恋人がいるって思われてたんだろうか。急いで否定するけれど、やっぱりあっさりと返事をされて、よけいにへこむ。一応フリーであることはアピールしたけれど。
恋人同士がすごすクリスマス。
まさか一緒に過ごしたいだなんて、言えない。
イブはみっちゃんと一緒にショッピングに行って、プレゼントを交換して、思いっきり騒いだ。今日の締めはケーキバイキング。店内で座っている私の髪には、さっき彼女からもらったキラキラの髪飾りが付いていて、私と向かい合う彼女の首には、私がプレゼントしたシルバーのネックレスが光っていた。
「なあ、なんややけ食いしてへん?」
「ふーんだ、気のせいだよそんなもんっ」
「あー、なるほどなあ。さっきまで楽しんでたけど、道行くカップルに石田を思い出してへこんでるとか、そんなところやろ」
「そーですよ、どうせ私は魅力ないですよーだ」
むちゃくちゃ八つ当たりをする私の前で、彼女はフォークを握りしめた。
「石田は彼女おらんからええやん!私なんて、オサムちゃんにクリスマスどうすんのて聞いたら、女の人と過ごす言いくさりよってん!」
「言いくさるって……」
「きーっ、腹立ってきた。オサムちゃんのくせに、何浮気してんねん!オサムちゃんの彼女にふさわしいんは私や!!」
「そ、そうだね」
私に触発されたかのように、彼女も勢いよくケーキを食べ始めた。ああ、もう。女の子とのデートが華やかだって?これはこれで、寂しいもんだ。
二人でお皿山盛りのケーキをもしゃもしゃ食べていると、テーブルに置いた私の携帯がブルブル震えた。右手のフォークを放さぬまま、左手で携帯をぱかっと開ける。
「ん?どうしたん?」
メールは、石田くんからだった。慌てたせいで、お皿の上にカチャンとフォークを落としてしまう。メールの中を見て、私は目を見開いた。
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