拍手お礼 | ナノ
『俺な、東京の高校に行くつもりなんや』
「……へ?」
『四天宝寺高に行くつもりやってんけど、どうせ、今のテニス部の仲間はみんなばらばらになってしまうやろしなあ、』
のんきな声で、謙也は言う。
『公立高校やと、どうしても設備はしれてるし、私立の方がいいかもしれんなあ、って思って。東京やと結構いい設備の私立高校あるし』
「……もう11月やろ、遅ない?」
『ちゃんと決めたんは最近やけど、勉強はちゃんとやっとるし、大丈夫っちゅー話や。スポーツ推薦もおさむちゃんが出してくれるんやて』
「そっか、それなら安心やな」
『俺に遅いことなんてあらへん。NOスピードNOライフや』
「それは意味が違うと思う」
『優勝はできんかったけど、全国大会三位をなめるんやないで』
「調子のんなアホ」
『さっきからひど!ちょっとくらいええやん!』
なんや財前光みたいや、とぶちぶち謙也は文句を言う。
相変わらずだなあ、謙也。さっきまでせり上がっていた寂しさが、涙とともにあっさり消える。謙也は私を泣かせて、そして、笑わせてくれる。私と謙也は、小さい頃からずっと一緒だった。
『そっちには侑士もおるしな、生活面でも安心やし』
「おばちゃんとおっちゃん、なんて?」
『特に何も。おかんもおとんも、それでいいんちゃう、みたいな感じで』
「はは、謙也ん家らしいわ。イグアナちゃんどないすんの」
『まあ、それは連れて行けへんしなあ、会いにくくなるんは寂しいけど』
「うん。あ、東京にくるんやったら、おでんのすじ肉、食べられんくなるで」
『ええーっ!?どういうことや!?俺あれ好物なんに』
「関東ではな、おでんにすじ肉、いれへんねんで」
『なんやて…!俺は認めへん、そんなん認めへんで!』
「謙也、ジンセイにはあきらめも肝心やで」
『あきらめたらあかん!そ、そうや、侑士に頼めば……』
久しぶりに話をしたのに、会話がどんどん続いて、途切れない。私と謙也の、会話のリズム。自然体なのに、力を入れなくても、会話はどんどん盛り上がって。
謙也、東京に来るんだ、本当に。
今度は、キラキラとした喜びが、胸いっぱいに広がって。
……そこで、はたと気がついた。
「ね、ねえ、謙也」
『何や』
「さっきの話、なんだけど」
ごくり、と私は唾を飲み込む。
「東京に来ることが決まってるなら、もう、流れ星にお願いする必要、なくない?」
『……あ』
私は、脱力した。
「もう、願い、叶いそうっていうか、高校は違うだろうけど……」
謙也も力が抜けたようで、ぼうぜんとした声が返ってきた。
『ホンマや……。3年前のお願い、叶えてくれたんかな』
「うん……」
二人してあっけにとられると、なんだか可笑しくなってきて、私は笑った。謙也の笑い声も聞こえる。目はまだ涙の熱をはらんでいるのに、可笑しくって、どうしようもない。
「なんだあ、効果ばつぐんだったんじゃない」
『せやな、ほんなら今日は流れ星さまにお礼言っとくわ』
「うん、私の分もよろしく」
『おん』
笑いを含んだ声で、謙也に話しかける。
「謙也。好きや」
『お、おおお、俺もや!!』
慌てた返事に動揺している謙也を想像して、私はまたくすくすと笑った。
レオニード、獅子は私に微笑みかけてくれた。願いを聞いてくれたのだ。
さあ、もうちょっとだけ、勉強、頑張ろうか。私は今、この上なく幸福なんだから。
(20101123)
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