拍手お礼 | ナノ




突然の電話で止まりかけていた頭がぐるぐると回りだす。

何か約束したっけ。最後に会ってから約3年、声を聞いてから約1年。メールはやりとりしてるけど。もしかして、私がさっきまで考えてたこと?いやでもまさか、彼が覚えているとは思えないし。

恐る恐ると、ぼやかして『解答』を口にする。


「空?」

『お、それや、しし座流星群や。なんやなんでそんなに自信なさげなん』

「いや、だって……」


まさか、覚えているとは思わなくて。という言葉は飲み込んだ。シツレイな気がする。


「こっち、雨降ってて、星がぜんぜん見られないの」

『ええっそうなん!?こっちは、見えるのんになあ、そら残念やわ』

「どこで見てるの?友達と?」

『いや、一人や、一人で毛布にくるまってんねん。前一緒に見たとこ、川の土手で』


じわり。喉が熱をはらんだ。それが少しずつせりあがって、私をいっぱいにする。ああ、ダメだ、声が震えてしまいそう。

覚えてて、くれたんだ、謙也。


「ねえ、覚えてる?一緒に、流れ星にお願いしたこと」

『当たり前や、』


電話の向こうから、笑う気配がした。


『今でも何言ったか、ちゃんとあげられるで。また会えますように、また一緒の学校に行けますように、また一緒にすごせますように……』


引っ越すことが決まって、その年、小学校6年生の今の時期に。私は謙也と二人で、親には内緒で家を抜け出したことがあった。横にならんで、川の土手にねっころがって、夜空を見上げる。二人がはく息が白く、空に上っていき、その先で、いくつもいくつも、星が流れた。その度に願い事をして。

外国にいくわけじゃない。永遠の別れじゃない。でも、12歳の私たちに、東京と大阪の距離は、あまりにも遠かった。


『な、なんやどうした!?ちょ、もしかして泣いてるん?何かあったんか!?』


見えるはずもないのに、私は携帯を握りしめたまま、かぶりをふった。声が、出てこない。


「謙也、謙也ぁ」

『ちょ、ホンマに大丈夫か!?』


謙也は、ライオンみたいだった。チャラい性格でもないのに脱色して金色に輝く髪、それを揺らしてコートを駆け回り、ボールにくらいつく。寂しがりやで、いっつも一緒にいたがって、優しくて、よく年下にいじられたりはしたけれど、芯は強くて、いつも明るい笑顔で私を助けてくれた。


「謙也……、会いたい」


ぽろっと、涙がこぼれた。ずっと、好きだったんだ。ずっと。


『お、俺もそうや!せやから泣くな!』

「せやから泣くなって、意味わからんわ」

『し、仕方ないやろアホ』


謙也が慌てているのが分かって、涙はまだ止まらないのに、思わず笑いがこぼれた。


『な、なんで笑うねん、泣いたり笑ったり』

「なんか、嬉しかってん」


今だに届く、謙也からのメール。四天宝寺の生活が充実しているのが分かって、楽しそうで、でもそこに私がいないことが、それが寂しくて、わがままだって言うのは分かっていたのだけれど。


『3年前の流れ星はあんまり効果なかったさかいな……、俺、今日の流れ星にも願掛けとくわ』

「うん、私の分もよろしく」


ティッシュで鼻をかむ。涙が、ようやく止まった。


『相変わらず色気ないかみ方やな』

「うっさいわ。ていうか、色気ある鼻のかみ方ってなんやねん」

『ノリやノリ。お、そうそう、もひとつ、話があってん』


次に発せられた謙也の言葉に、私は目を丸くした。

[back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -