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ケン坊とどういう関係や、と聞かれて私は目をしばたかせた。どういう関係もこういう関係もないけれど、なんで白石がそんなことを聞くんだろう。そういえばケンちゃん、テニス部の副部長だっけ。部活で何か言ったのかな。


「ずっとチョコもらってるって聞いて、幼なじみかとも思うたけどそれはおかしいさかいなあ。ケン坊はずっと関西に住んでたはずやし」

「ああ、そんなことか。親戚なんだよね、はとこなの」

「なんや、そういうことか、安心したわ」


あからさまにホッとした白石に、私は疑念が沸いてきた。テニス部って恋愛禁止とかあったっけ?チョコって運動能力に影響を与えたりしないよね?白石は、そっちやないわ、と慌てている。


「もしかしてケンちゃんとライバルだったとか。白石、……モテ顔してるくせに実は彼女いないとか!?で、ケンちゃんに先越されたと思って焦ったとか」

「そんなんとちゃうわ、確かに彼女はおらんけど」

「え」

「なんやな、その反応は」


私は思わず白石をまじまじと凝視した。白石はなんだよとでも言いたそうな顔でこちらを見ている。思わず恋愛ってタイヘンデスネーとつぶやくと、再度、なんやな、と突っ込みが入った。


「いやだってー、モテ男白石に彼女がいないって、普通の男子はなおさら彼女作るの難しいってことじゃん!絶望的じゃん!うはー」

「なんやそれは!そんな単純なもんちゃうわ。おらんの?好きな人」

「う。いないよ。……ナニその目は!へーへー悪かったですねえ、奥手で」

「いやいや、まだまだ大丈夫や。ほな、本命チョコは俺が頂いた」


突如ニコニコ顔になって白石が言い放った言葉に、私はアゴがはずれそうになった。なにこの殺し文句。なにこの口説き文句。天然?わざと?遊ばれてる?何の魂胆があってこんなことを言うんだ、このバイブル野郎は!?


「その台詞、今まで何人の女の子に言ってきたの?」

「今が初めてや!俺はそんな軽い男やないわ!」

「いや、思いっくそ軽そうだけど」


白石はううん、手強いな、と唸った。やっぱり遊んでやがったコイツ。白石はきっとチョコを大量にもらうんだろうし、いくつチョコをもらったかなんてもはやどうでもいいんだろう。それできっと、友達と本命チョコをいくつもらったかで競っているに違いない。それで本命をもらおうと口説いているのか、なんてやつなんだ!


「そりゃ、そんな簡単に本命チョコなんて渡せないよ。お菓子作り、へたくそだし」


だんだんムカついてきたので、顔をそらして言い返すと、白石は少し沈黙した。そしておもむろに言う。

「ほな、下手やなかったらええんやな」


そういう問題じゃない、と言いかけたところで、突然体をぐるっと半回転させられた。片手であごをおさえられて、もう片手を体に回される。
背中から、抱きしめられている。


「追風、いただき」


耳朶を噛まれそうな距離で囁かれて、背中がぞくっとした。顔に血が上る。変に体がこわばって、でも触れ合った体から相手の鼓動が増幅されて聞こえる。これは、やばい。腰が抜けそう。ふう、と白石の息が耳に当たって、体が震える。


「な、なっ」

「なあ。最近、バレンタイン用のお菓子、しょっちゅう作っとるやろ」

「な、なんで知ってるの」

「髪から甘ーいチョコレートの香りがする。そんなに毎日毎日、たくさん作ってどうするん?」


白石は私の髪に鼻を埋めたようで、後ろ髪が掻き分けられた。今度はうなじに息がかかる。なにこれ。なんで。同じ言葉がぐるぐると頭の中を回る。変なポーズのまま固まっている私は力が入らなくて、気を抜けばもたれてしまいそうだった。


「いや、いやいや、それは単なる練習で」

「ほう、そこまで練習するほど大切な本命の相手がいるっちゅうことか。妬けるなあ」

「ち、ちがう、好きな人、いないっ」

「ほな俺に本命くれたってええやろ」


白石にぎゅっと締め付けられて、後頭部から囁かれる。

気づいとったか?髪のチョコレート。追風ゆうんやなあこれ。歩いた後にも香りがほのかに漂って、ずっと忘れられへんかってん。え?ほな、一旦本命チョコはあきらめるわ。いやでも本命がもらえへんとなると俺だけの特別感がなくなるなあ。そら欲しいわ、当たり前やろ。本命くれへんのやったらずっと毎朝こうすんで。追風は俺が独占や。え、なんでかって?言わんでも分かるやろ。


(20110127)

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