バッドトリップ! | ナノ
35

「Kだったか、テニプリの作者はここによく来るのか?」
「わかんない。今時の漫画家さんて、原稿を郵送でやりとりしたりするんじゃないっけ」
「それなら偶然会うというのは期待できねえな。情報収集に専念するか」
「どうにか会えないかなあ」

そうは言ってみたものの何にも良案がない。K先生は人気作家なのだ、ファンですと名乗ってみたところで会えるとも思えなかった。
跡部はソファにひじを突くと、S社の社員たちが行き来している入り口をじっと睨むように眺めていた。そしてぼそっと言う。

「四カ所か」
「は?」

唐突な言葉にきょとんとしていると、跡部はチッと舌打ちをして「そう上手くはいかねえな」と言った。

「社員専用の入り口に向けて取り付けられている防犯カメラの数だ」
「……。うん、まあ厳しいよね、そりゃ」

不法侵入でもするつもり?この世界じゃ跡部財閥の権力は効かないんだよ!!
そう叫びたかったが周りに人がたくさんいる現状でそんな物騒な台詞は言えない。
仕方なく、私は無難な言葉をかけた。

「平和にいこうね?」
「ああ……できればな」

捕まったらなんにもならないじゃん、そう文句を言おうと口を開こうとした、そのときだった。跡部は急に視線を鋭くして私の口をふさいだ。

「むぐ」
「シッ」

眉間にしわを寄せると、跡部は私に目で隣の席を示した。見れば、ラフな格好の男性が二人、座っている。二人とも首から社員証らしきものを下げていた。
跡部は私の耳元で小さく小さく囁く。

「あいつら、座るまでお前をチラチラ見てたぜ」
「え!?知らない人だよ、会ったこともない」

もごもごと口を動かして跡部の手の隙間から囁き返していると、男性たちはテーブルに書類を広げながら話し始めた。

「最近どう?」
「まあまあっすね。ベテランとの仕事は楽ですが……あのー、今思い出したんですけど」
「あ、俺も!K先生のことだろ」
「よくわかりましたね」

K先生の名前にドキッとする。跡部も同じ気持ちだったようで、私たちは顔を見合わせて耳を澄ました。

「連絡取れないんだって?」
「音信不通みたいですね。奥さんにも居所がわからないとかなんとか」

K先生の名前にはね上がった心臓が凍りつき、そして嫌な音をたてて早鐘を打ち始める。
音信不通って、どういうこと?

「今までもK先生は時々いなくなってたろ、でもこれほど長期間連絡つかないのは初めてだって担当が嘆いてたぞ」
「へー、そうだったんすか。長期間ってどれくらいで?」
「2、3週間だとよ。今まではせいぜい1週間だったらしいが」
「うえ、それは辛いなあ。胃に穴があきそうっす」
「だな」

2、3週間前って、つまり。
呆然としながらも、考える間もなく結論が出る。
つまり、跡部がこちらへ来た頃だ。跡部がトリップしてきたのと同時期に、K先生が音信不通になったのだと。これが偶然であるはずがない。

私の口から跡部の手が離れていく。見れば、跡部もまた呆然としていた。


20150408

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