バッドトリップ! | ナノ
34

磨き抜かれたビルのガラス窓に瑞々しい朝の太陽が映っている。
私は無言のままそびえ立つS社を見上げた。ここに「歪み」のヒントがあるかもしれないと思うと気が引き締まった。もしかしたら、跡部を帰すための方法が見つかるかもしれない。でも、もしかしたら「歪み」を引き起こした犯人がここにいるかもしれないのだ。

横を見るとサングラスをかけた跡部と目があう。跡部は「わかっている」と言うのように頷いた。
トリップの原因が全くわかっていない今の状態では慎重に動かなければならない。「歪み」が偶然起きたものならいいけれど、もし誰かが悪意をもってしたことだとしたら、こちらの動きを犯人に知られると危険だ。
でも、何もしないわけにはいかない。

「ねえ、でもさ。さすがにその格好はどうよ」
「アーン?」

跡部は100均で買ったサングラスに不織布マスク、背中に龍の絵が描かれたジャケットを身につけていた。中学生にしては無駄に良い体格も相まってチンピラに見える。

「ていうかどうしたの、そのジャケット」
「押し入れで見つけた。飲み会のネタに斎藤さんが着たらしいぜ」
「それじゃただの不良に見えるよ!せめてサングラスは外さない?」
「『歪み』の黒幕がいるかもしれねえ。正体を隠すためにサングラスは必要だ」
「でもそんな格好してたらS社の中に入れてもらえないんじゃ」
「……そうだな。だが、もし中に黒幕がいて俺様を知っているなら泣きボクロに気がつくだろう。サングラスはこのままでマスクを外すことにするぜ」
「うん」

深呼吸をして気持ちを改め、いざS社に向かって一歩を踏み出す。
自動ドアをくぐり抜けて受付の前に立つと、受付嬢がこちらを見て目を丸くした。受付嬢は私と跡部を交互に見ている。
私は彼女の視線にいたたまれなくなった。中学生女子とイケメンチンピラの組み合わせ。いったいどう見えるんだろう。
私は疑われる前に先手を打った。

「こんにちは。倉本麻央ともうします。本日9時より宮田タケルさんと面会のお約束があるのですが」
「少々お待ちください。……はい、承っております。こちらへどうぞ」

受付嬢は不思議そうに首をかしげながらカウンターから出てきて先頭に立った。
大人しく彼女についていきながら、ほっと胸をなで下ろす。何も聞かれなかった。一応跡部の偽名も考えてきたが、嘘はばれるとやっかいだ。
通された先は一階のロビーで、広い空間にソファとテーブルが並んでいる。どうやら編集者と作家の打ち合わせにも使われるようだった。

「こちらでお待ちくださいませ」
「はい」

ソファに身を沈めて、挙動不審に見えない程度にあたりを観察する。ロビーにいる人はまばらで、今なら跡部と内緒話をしてもたぶん聞かれない。
跡部は私の隣に腰を下ろすと、小さな声で話し始めた。


20150113


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捏造いろいろ。

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