バッドトリップ! | ナノ
33

「麻央。麻央ー、聞いてる?」

お母さんに呼ばれている。私はハッとPCから顔をあげると「なにー?」と叫び返し、急いで自室から出た。いつの間にかファンサイトに夢中になってしまっていた。いけない、いけない。
台所にいたお母さんは手にしていたスマホをエプロンのポケットにしまうと野菜を切り始めた。

「あのね、いまタケルくんからメールが来たのよ。男物の、中学校の制服いらないかって」
「弟に?中学って、うちの中学の?」

タケル兄は年上の従兄弟で、確か今年から社会人になったはずだ。

「タケルくん昔は時計台に住んでいたのよ」
「そうなの!中学一緒だったんだね」
「制服は記念にとっておいたみたいなんだけど、そろそろ手放そうと思っているらしくてね。制服の形は昔から変わっていないし、まだ綺麗なままだからいらないかって」
「よかったね、母さん。……あれ、なんで私が呼ばれたの?」

私が頭をかしげると、お母さんは包丁をまな板に置いて私に向き直った。

「タケルくんの制服は祐介には大きすぎると思うのよ。だから、もし必要なら跡部くんにあげたらどうかしら。跡部くんの新しい保護者さんはこのあたりの方なんでしょ?なら時計台中学に入学するんじゃない」
「あ」

すっかり忘れていたけどそうだった。跡部が学校に行く準備もしなければならない。
本来なら学校に行く必要なんてないのかもしれないけれど、行けるならちゃんと行っておいた方がいいだろう。いくらあの前向きな跡部といえど一人で家にいたら気が滅入りそうだし、学校に行けば何か情報が手に入るかもしれない。

「それとも、もう制服注文しちゃったかしら」
「ううん、まだしてないはず」
「跡部くん、身長はどのくらいなの」
「確か、175センチって言ってた」
「あら!ならぴったりじゃない」

お母さんはにっこり笑うと再び手を動かし始めた。

「跡部に伝えておくね。タケル兄にお願いしますって伝えておいて」
「はいはい。そうだ、あなたタケルくんの家か職場に制服取りに行ける?タケルくんのお母さんに渡すものがあるから、できたらついでに持っていって欲しいのだけれど」
「いいよ。……だけど家は遠いね。電車で二時間くらい?職場はどこだっけ。確か出版関係だって」
「今はS社にいるんですって」
「ええっ!」

私は喫驚して思わず大声をあげた。S社――テニプリを出している超大手出版社。噂をすればなんとやら、だ。

「え、え、あのS社?」
「もちろん」
「……すごい」
「あんたが出版社にそんなに興味があるなんて知らなかったわ」

笑う母さんの横で、私はごくりと唾を飲み込んだ。S社に制服を取りに行くんだ。もしかしたらS社の中に入れるかもしれない。もしかしたら、K先生のことが聞けるかもしれない。もしかしたら――、跡部の正体がわかる人がいるかもしれない。

「行く!そうだ、今度の水曜日、創立記念日で学校休みだよね?その時でいいかな」
「タケルくんに聞いてみるわ」
「お願い。私、跡部に電話してくるね」

ナイスタイミングだ。運がよかった。
私は階段を一気にかけ上がると、興奮冷めやらぬドキドキした気持ちでスマホを手に取った。


20150108

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