バッドトリップ! | ナノ
32

斎藤さんは跡部にまつわる不自然さ――『歪み』に気がついている。しかし彼は跡部景吾はおろかテニプリも知らないようだった。だから私と違って簡単には跡部のトリップを信じられないに違いない。
どう伝えれば斎藤さんは納得してくれるのだろう。
ない頭を絞って考えていると、跡部が首を横に振った。

「テニプリの作者について調べてもらうよう、斎藤さんを説得する必要がある。そのために『歪み』の情報が欲しい。まずはできる限り独自に情報を集めてみるとするぜ」
「どうやって?」
「そうだな。ここで情報収集のために使えるのはインターネットくらいか?」
「図書館なら大きめのが駅の向こうにあるよ」
「よし、好都合だ」
「でも……具体的に何を調べるの?」

間抜けな質問だったけれど、情けないことに何からどう調べるべきかも検討がつかなかった。
跡部は聡明そうな目を伏せてしばらく考え込むと、冷静な口調で説明した。

「まずは俺と似たような体験をしたという話が他にないかが知りたい。すなわち、神隠しを逆さまにしたような伝説や言い伝え、噂の類いがないかを調べるつもりだ。
そういった話が見つかったとしても実話とは限らない。作り話かもしれない。だが、もし実話であれば『歪み』の正体を知るきっかけになるかもしれないからな」
「なるほど」

頷きながら、私はため息をついた。

「ごめん、私、役に立たないかも」
「アーン?なんだいきなり」
「『歪み』の原因を調べるために何したらいいかよくわかんなくて。跡部と同じことをしても仕方ないでしょ?」

正解がどこにあるかわからない問題を調べるってなんて難しいんだろう。跡部は、正解にたどり着くために何をすべきかを一瞬で見抜いたけれど、私には難しいことだった。
それが、情けない。同い年だというのに。


***


帰宅した私はPCの前で唸っていた。何から調べよう。
跡部は「お前は学校もあるから何もしなくていい」と言ってくれたがそうはいかない。跡部を一刻も早くもとの世界に戻してあげたいし、のんびりしていたら取り返しがつかなくなる可能性もある。

「そうだ、テニプリ……」

私はふと思い出した。斎藤さんちに散らばったテニプリを。私が帰る頃に、跡部はテニプリをすべて拾い上げて棚にしまっていたけれど、その表現はとても嫌そうだった。自分だけが世界から抹殺されたような漫画をあまり目にしたくないのかもしれない。
もし、そうなら。トリップに関係してそうなテニプリやK先生の情報は、私が集めた方がいい。

「えーと……ファンサイト、テニプリ、と」

カチャカチャっと検索エンジンに打ち込んでサイトを探す。予想通り、跡部の名前はそこにないものの膨大な数のサイトが引っ掛かった。

「よし!」

私は意を決して、一番上にあるサイトを開いたのだった。



20150102

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