バッドトリップ! | ナノ
31

跡部は自問自答するかのように話し続ける。

「これはなんだ?俺たちは漫画のキャラクターなのか?虚構の存在だとでもいうのか。そんな馬鹿な。俺様はここにいる。虚構のはずがねえ。
ならばどういうことだ。俺たちの世界が漫画になる超自然現象でも起きているのか?あるいは、この世にはいくつも異なる世界が平行して存在していて、俺様がたまたま別世界へ来ちまったってことか?今いるこの世界も俺たちの世界から見れば漫画の中なのか?」

私は答えに窮した。さっぱりわからない。わからなくなってしまった。少し前の私なら「跡部景吾や越前リョーマは漫画のキャラクターだ」と断言していただろう。だけど、跡部はここにいる。漫画のキャラクターがここにいるはずはない。体があって、体温もあって、自由にしゃべって、私も彼に触れられる。
すべてが、自分の理解を超えた現実だった。

「そもそも『どうして』なんだ。どうして俺様はここにいる。誰かの仕業なのか?それとも偶然か?あるいは物の怪や妖怪……のような超人的な何かが関わっているのか?どうなっているんだ?」

そうだ、それだって不明だ。跡部が自分の意志でこちらへ来たわけではないということしかわからない。仕組まれたことなのか偶然なのか。誰かがかかわっているのか。あるいは。
何も言えずに黙って跡部を見ていると目があった。めまぐるしく色を変える瞳の青を見たとたん、ようやく私の喉からは絞り出したような声が出た。

「わかんない、けど。跡部が漫画なら、私も漫画、なのかな」

言っておきながら自分の言葉に怖気が走る。
私は心のどこかでずっと「自分は人間で、跡部はこの世界で作られた漫画の中のキャラクターだ」と思いこんでいた。でもその認識が正しいとは限らない。むしろ私たちこそが、テニプリの世界で描かれた漫画のキャラクターかもしれないではないか?そうでない保証なんてどこにある?確かなのは、私と跡部が別の世界に生きていたということだけなのだ。

私は背筋に寒いものを感じてぶるりと身震いをした。たぶん、これでようやく跡部と同じ立場に立ったのだ。これが実感。これが、現実。
二次元が三次元になるなんてありえない。
その常識が覆された時点で、私はこれまでの常識を捨てざるを得なくなった。

心臓がドキドキする。胸を押さえて跡部を見つめ返すと、跡部は少し眉尻を下げた。

「ねえ跡部。私たち、漫画じゃないよね?」
「だといいがな」

沈黙が落ちる。私も跡部も漫画のキャラクターで、作者同士が漫画をクロスオーバーさせてみましたーだなんて落ちはあってほしくない。

「もしそうだったらどうする?」
「……そんなはずはねえ」

お互いに支離滅裂な会話をしているとわかっているのに止められない。不安がどんどん膨れ上がって、私は跡部の手にすがりついた。跡部もまた私の手をぎゅっと握り返す。

「他の人もいるのかな。別の世界から来た人が。この世界の人も、いきなり別の世界に行っちゃったりするのかな」
「さあな。わからねえことばかりだ。だが」

跡部は空いていた方の手も私の手に重ねると、私の存在を確かめるかのようにもう一度ぎゅっと強く握った。だんだんと跡部の顔から不安や混乱が消えてくる。代わりに宿るのは氷のような知性と意志。その様子を見て、自分の心もまた少しずつ凪いでくるのがわかった。

「少なくともテニプリの作者は何か知っているだろうぜ。それは確かだ。この世界に生きていながら俺たちの世界を知ってるんだからな」
「……うん」
「このKってやつが俺様をこっちに連れてきたのかどうかはわからねえが」
「うん。あ、そうだ!あのね、K先生の話なんだけど」

不安に紛れて肝心なことを伝え忘れるところだった。
私がカナから聞いた話を伝えると、跡部は目をきらりと光らせた。

「ほう、興味深い。ますます調べる必要がありそうだな、アーン?」
「うん。……で、どうやって?」
「……」
「……」

問題はそこだった。
跡部は今やただの一般人だ。私と同じで何も権力がない。

「斎藤さんに頼んでみる、とか?」
「ああ、今のところ警察の力を借りるしかねえな。問題はどうやって頼むかだが」

斎藤さんは跡部がトリップしてきたことなんて知らない。どうしようか?

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