バッドトリップ! | ナノ
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彼はまもなく到着した救急車で病院へ運ばれた。聞くところによると、気絶しているだけで命に別状はないらしい。だが彼は身分証を持ってなくて、身元が分からないのだそうだ。

一方の私は軽く病院で検査を受けた後、付き添ってくれていた警察官に必死で説明をした。下校途中で気絶したこと、気がついたら彼が側で倒れていたこと。私にだって詳しい事情はサッパリ分からなかったから、言えることはごくわずかだった。

にもかかわらず、私は警察官に病院で説明し、現場で説明し、その後警察署で事情聴取をされた。お母さんに迎えに来てもらってようやっと家に帰ったころには、夜の9時を回っていた。お腹はぺこぺこだし、説明し通しで喉は痛いし、奇妙な体験をしたことへの高揚感と疲労でくたくたになっていた。
かばんを床に置いて制服のままカーペットに転がりため息をつく。でも母さんから「夕飯ができたわよ」と声がかかったので、しかたなく身を起こしてテーブルについた。
母さんは炊事をしながら優しく言った。

「大変だったわね。疲れたでしょ」
「うん。まさか、こんなことになるなんて。事件だか事故だかもわかんないんだって。その男の子が目覚めたら話を聞いてみるって、刑事さんが」
「そう。私も詳しく聞きたいところだけれどまた明日にしましょう。今日はご飯をしっかり食べて早く寝なさい。あなただって気絶してたんだから、何かあったら困るわ」
「……うん、そうする」

私は素直に目の前の夕飯に手を伸ばした。もくもくと咀嚼しながら、彼のことを考える。上品そうな整った顔立ちの、たぶん同じくらいの年の男の子。一体彼と私に何があったのか。
たまたま近くにいた私たちに何かがぶつかってきたのか、それとも彼と私の気絶は関係がなくて偶然が重なっただけなのか。
彼は身分証やかばんどころか財布すら持っていなかったらしい。何も持たずにここまで来たのか、気絶中に盗られたか。いやそもそも、彼の荷物を狙った強盗が彼や私を殴り付けて行ったのかもしれない。

結局のところ、彼が目覚めるのを待つしかないようだ。

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